オリエンテーション合宿で池に落とされた雪くんが熱を出した。
 気付いたら、誰の部屋にも居なくて、四人で探してみたら、彼は学園の保健室に一人でいた。
 どうして一人で堪えようなんて思ったんだろうか。

 でも、きっと、僕らに気を遣ったに違いない。

 最初は誰にも興味を示さない彼を誰が一番に落とすか試してたはずだったけど、素直で真っ直ぐで、それでいて鈍感で、何があってもやっぱり僕らのそばに戻ってきてしまうところが可愛くなってしまって。

 悪魔なのに、僕には雪くんが天使にしか見えないんだ。
 天使過ぎて悪魔に思えない。

 なにより、この寝顔……、赤ちゃんじゃないか。

 今、僕が寝かしつけたんだ。
 椅子に座って、何時間も見てられる。

 ――ああ、可愛い、可愛い、可愛い……、胸が苦しい。

 最近、彼を見ていると僕の心臓が暴れるんだ。

 これは……いや、これこそが恋なのかもしれない。

 コンコンッ

「はい」

 寝室の扉をノックする音に反応して、返事をする。

「失礼します、坊ちゃん」

 中堂さんだ。
 雪くんの食事をどうするか、聞きに来たのだろう。

「可愛らしいお嬢さんですね」

 静かにベッドの横に立った中堂さんが言う。

「中堂さん、何を言ってるんですか? 雪くんは男ですよ?」

 そこは間違ってはいけないところだ。
 僕は訂正して、中堂さんを見た。

「はあ、そうでしたか」

 中堂さんは一瞬、不思議そうな顔をして、それから珍しく、ふっと笑った。
 この人でもこんな顔をすることがあるのか、と思いながらも視線を雪くんに戻す。

「彼が目を覚ましたら、優しい味のおかゆを頼みます」

 視線を逸らすことなく、僕は中堂さんに言った。

「はい、坊ちゃん」

 そう言って、隣に立っていた気配が扉の向こうに消える。

「早く元気になるんだよ?」

 僕はそっと雪くんの髪に触れた。