「人間なんだな?」

 その問いに答えは返ってこなかった。
 華奢な手で塞がれた視界。自分の手で剥がせば、すべてが見える。
 だが、俺にはそれが出来なかった。

「っ……お願いします……! 密告しないでください……っ! うち、貧乏で、弟もまだ小さくて……、家族と自分のためにいま学園をやめるわけにいかないんです……っ!」

 目の前で号泣されて、次第に指の間に隙間が生まれて、悪魔に暗さなんざ関係なくて、泣き顔だけ、すげぇ見えた。

 ――なんつー顔して泣いてんだよ。

 俺が悪魔だって言ったってこんな顔で泣かれて、酷いことなんて出来るわけねぇだろ。

「泣くな」

 急いで、俺は自分のジャージを脱いで、目の前のやつの肩に掛けた。

「うぐ、晩くん……?」

 ――くっ……、この顔は反則だろ……。

 なんだ、この心臓の異音は。
 相手は男だぞ? しかも人間の。

「着ろ」

 ひとまず、自分の心臓を落ち着かせるためにも、やつに後ろを向かせる。

 ――はぁ……、どうしちまったんだ……、俺の心臓。

 そう思いながら、完全に解放された目でやつのことを見る。

 俺のジャージを着たその背中がすごく小さくて、頼りなくて、なぜだかすごく守ってやりたくなった。

 気付けば、やつのことを後ろから抱きしめていて……。

「お前が男でもいい。……お前の秘密、俺が絶対に守ってやる。だから、俺のそばに居ろ」

 ――何言ってんだ、俺。

 俺はこの生意気な男の興味を引こうと思っていただけで……、逆に引かれてどうすんだよ……。