「行きましょう。山のほうですかね?」
「おそらく……。ごめんなさい、本当に」

 あまりに謝ってくれるから、心が痛む。
 探してあげなければ、と私は彼女と一緒に山に足を踏み入れた。
 
「くしゅんっ」

 しばらく歩いていると、彼女が可愛らしいくしゃみをした。
 春といっても、やっぱり夜は少し冷える。
 しかもここは山中だから、さらに。

 こんなとき、男の子だったら、女の子に上着を貸すよね。
 怪しまれないために、ここは少し我慢すれば……。

「これどうぞ」
「雪くん、ありがとうございます」

 私なんかが貸したジャージを雫ちゃんは何の躊躇いもなく自分の肩に羽織ってくれた。

「そういえば、何を落としたんですか?」

 内容を聞くのを忘れたな、と思って、部屋にあった懐中電灯で道を照らしながら、雫ちゃんに問う。

 もしかして、この小さな池に落としたとか?
 昼間、ここを通った気するもんね。

「お父様にいただいたリボンの髪留めを落としてしまって……」

 池を覗き込んでいると、真後ろから雫ちゃんの声がした。

 ――あれ? 雫ちゃん、髪留めなんて使ってたっけ?

 そう思った瞬間だった。

 バシャンッ!

 気付いたときには、私は近くにあった小さな池に落とされていた。

 こちらを振り返ることなく、走り去っていく雫ちゃん。

 懐中電灯を取られてしまって、周りがほとんど見えない。

「あー、騙されちゃったかな……」

 もしかして、私が知らないだけであの子、天使組じゃなくて悪魔組の子だったのかな。興味なくてB組から他の組の子のこと、全然知らなかった。

 やっぱり私、まだ恨まれてたか……。