バンッ

 突然開いた扉に「はぁ……」と溜息が出る。
 廊下の気配に気付いて、白鳥の耳は塞いでおいたから、なんとか起きなかったみたいだが。

「加賀美……!」

 部屋の入口には黒いオーラを纏った東条 晩が立っていた。

 怒った生徒会長様のお出ましか。

「しーっ、おーい、ノックはどうした?」

 人差し指を自分の口元に当てて、注意する。

「……うるせぇな、そいつを返せ」

 さすがに理解したのか東条は声を抑えた。

「白鳥は大人の男が良いってよ」

 まあ、そんなことは言われてないが、揶揄ってみる。

「……黙れ」

 面白いくらいに嫌悪をあらわにされた。

 ――ほう、怒りながらも殺気は出さないのか。

「どうして殺気を出さない?」

 悪魔なら他人を怖じ気づかせるくらいの殺気は容易に出せるはずだ。
 それなのに、いまのこいつはそれを出そうとしない。

「そいつが起きる」

 漆黒の視線が真っ直ぐに俺の膝の上に向けられる。

 何言ってんだか、白鳥は鈍感だから、起きないと思うんだがな。
 まあ、いい、白鳥が自分でそういうことにでもしたんだろう。
 それでもその嘘を信じてるとは生徒会長様も素直だな。

「こいつは俺が連れていく」

 つかつかとこっちにやって来たと思ったら、勝手に白鳥のことを横抱きに持ち上げちまうし……、連れていってもいいが、白鳥は目覚めたときにびっくりするだろうな。

 まあ、それも面白そうだが。

「ん……」

 何も知らない健やかな寝顔が、小さく声をもらす。
 
 ――ごめんな、白鳥、先生、将来を担う生徒会にやる気を出させるのも仕事なんだ。

 そう心の中で語りかけながら、俺は白鳥の身体に彼女のブレザーを掛け直した。