「あーあ、そんな寝方したら首が痛いだろうよ?」

 寮に帰りたくない、とかでやってきて、夕食後にソファで寝落ちした白鳥を前に俺は慌てた。

 ソファからはみ出す俺の場合、肘掛けを枕にして昼寝をするから、ここにはクッションも枕もない。
 横向きに寝てるいまの白鳥は明らかに頭の位置が下過ぎる。
 このままだと明日の朝、寝違えているだろうと思った。
 若さでどうにかなるのかは不明だが。

 ――今度は用意しておくか。

 そう思いながら、仕方なく、自分の膝を貸すことにする。

 静かに白鳥の頭を上げ、そこに自分が座って、そっと元に戻せば、白鳥が目を覚ますことはなかった。
 身体の上からブレザーを掛けて、できあがり。

「ほんと、綺麗に整えられちまって……」

 顔に掛かったさらっとした黒髪を耳にかけ、まじまじと見つめる。
 眠っていても分かるほど、綺麗に整った中性的な顔だ。

 ――見れば見るほど似ている。

 数年前まで、俺もここの学園の生徒だった。
 いまなお健在なこの学園独自のルールはその頃もあって、たくさんの人間が密告と共にここを去った。

 俺も一人の少女を密告したことがある。

『加賀美くんにだったら、密告されても怖くない。お願い、もう無理なの』

 もう秘密を抱えて過ごすのは堪えられないと彼女に頼まれて、俺は彼女のことを密告した。

 それは一瞬のことだ。

 たった一言、彼女は「ありがとう……」と言って学園を去った。
 俺はただ彼女を見送った。

 さよなら、とも何も言えずに。

 それから、彼女のことを好きだったのだと後から気付いて、後悔した。

 本当は俺が守ってやれたんじゃないかって。

 俺は彼女と容姿の似ているこの子を彼女と重ねてるんだろうな。
 この子だけは、って思っちまう。
 俺はもう後悔したくないんだよ。

 私情を挟むなんて御法度なんだけどな。

 人の魂は儚い。
 この学園に変わったルールがある意味は天使と悪魔どもにそれを教えるためだ。