「教師なんかに触らせんなよ」
「どこも触られてません」

 左手を降参するように上げる。

 なにをそんなに怒っているのだろうか。
 加賀美先生には犬猫みたいに頭わしゃわしゃとかされたけど、それ以外は別に触られてない。

「ああ、クソッ」
「わっ」

 今夜の東条くんは一体、どうしたのだろうか。
 急にガバッと私を抱きしめたりして。

「仕方ねぇから、お前には俺のことを晩と呼ばせてやる」
「はあ」

 どうして、そんなことを言うのか。
 意味が分からなくて、私は間の抜けた声を出してしまった。

「なんで、お前はそんな……――もういい、風呂入って着替えろ。制服、皺になるぞ」

 私から身体を離して、東条くんはすごく嫌そうな顔でベッドから降りた。
 
 言われて初めて自分がまだブレザーを脱いだだけの制服姿であることに気付く。

――制服、脱がさないでいてくれたんだ。

 危なかった、これで着替えさせられてたら、多分、東条く……晩くんに私が人間で女だってバレてた。

 ほっと気が抜ける。

 一人になりたかったけど、連れ戻されてしまったのなら仕方ない。
 誰も探しに来てくれなかった初日よりはいいじゃないか、と思うことにした。
 というか、晩くん、心配して迎えに来てくれたのかな?

「あの……」
「それと、一人になりたいなら、してやるから」

 私がお礼を言う前にそう言って、東条くんは部屋から出て行って、次の朝も戻ってくることはなかった。