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「べぇえええ、加賀美先生、これ見てくださいよぉぉぉ」

 放課後、私は容姿のことで加賀美先生の休憩室を訪れた。
 というより、もう崩れるように入り込んだ。

「なんだ、その限界オタクみたいな鳴き声、白鳥か。って、いいじゃねぇか、それが本来の姿だろ?」

 ソファに寝転がっていた加賀美先生は私を見て、ははっと爽やかに笑った。
 そうだった、先生は私の素顔を知っているんだった。
 担任のくせに朝のホームルームと帰りのホームルームさぼって今日は私と顔を合わせてなかったけど。

「変装してた意味がなくなるじゃないですか。私は地味に目立たずに学園生活を平和に過ごしたかったんです。もういまじゃ全てのピースが狂いまくって……」

 物理的に生徒会の中心に立たされてるんです。
 きっと、明日も……、あ、明日は学校休みだ。やった。

「もう今日、あの寮に帰りたくないんです、先生、ここに置いてください」

 私は土下座するようにソファに頭をつけた。

 少し一人になる時間がほしい。
 男になるって決めたのは私だけど、ずっと性別を偽ってるのは疲れる。

「先生はお前の将来が心配だ」
「へ?」

 溜息交じりの言葉が聞こえて、私は顔を上げた。

「そんなに警戒心が薄くて」

 まるで呆れてるみたいだ。

「先生、危ない人なんですか?」

 やっぱり悪い人なのだろうか、とじっと見つめてしまう。

「まあ、見たとおり悪魔だしな」

 赤い髪に自然界ではあり得ない燃えるように真っ赤な瞳、それといま浮かべてる意地悪な笑み。悪魔だ、この人は。人間界のルール通用しないとか言ってくるし。

「一晩部屋を貸すのは良いが、かと言って、ここに一人で置いておくのも心配だしな」

 起き上がってソファに座り直した加賀美先生は、むむっという顔をした。