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「もうお腹いっぱいで動けません」

 灯くんの部屋に入った瞬間、私は食後に一番やってはいけないこと、すぐ横になる、をしてしまった。
 ソファに横向きに寝転がって、満腹の幸福をかみ締める。

「雪ちゃん」

 後ろから灯くんの声が聞こえて、ハッとなる。

 しまった、忘れてたけどさっきのは最後の晩餐だったんだ。
 きっと、私はいまからサンドバッグにされる。
 だって、あんなに東条くんと灯くんバチバチしてたもん。

 そろりと上を向くと、こちらを覗き込む灯くんと目が合った。
 影になってて、怖い。

 私いま、ちゃんと普通の顔できてる?

 お、男だからって乱暴にされたりしないですよね?
 東条くんみたいに殺気を私にぶつけてきたり……

「ひょぇ!」

 灯くんに背もたれ側からガバッと覆い被さるようにされて、私は限界オタクみたいな悲鳴を出した。

「今夜はボクとお揃いのパジャマ着ない?」

 よく見ると、そう言う灯くんの手にはパステルカラーな水色と紫色のクマのパジャマがあった。

 ――あ、パジャマか。

「ありがとうございます、着ま――」
「ねえ、さっきから思ってたんだけど、雪ちゃん、なんで怯えてるの?」

 起き上がってパジャマを受け取ろうとしたら、するりと横に灯くんが滑り込んできて、ソファに隣同士で座る形になった。金色の瞳が不思議そうに私を見つめてくる。
 
 怯えてるのバレてる……!