とりあえず、呼ばれるままに壁の中に入る私。
 でも、周りには生徒たちが固まっているのが分かった。
 たぶん、壁の隙間から見えるんだと思う。

「加賀美先生、まずいですって。私、力なんて持ってないですよ。みんな覗いてますから、止めてください」

 人形を見定めている様子で、私は小さな声で先生に抗議した。

「まあ、やってみろよ」

 私の後ろに立ったと思ったら、先生は笑いを含んだ声で言った。

 ――この悪魔……!

 絶対に何も起こるはずないのに、私は人形に向かって勢いよく右手をパーにしてかざした。

 シーン。

「おい、何も起こらないぞ?」

 外から誰かの声が聞こえた。

 そりゃ起こりませんって、私、人間なんですって。

 そう思ったときだった。

 パチッと人形から小さな音が鳴った。
 それからボッと小さな火が点いて炎が大きくなっていく。

 ――あれ、これって、闇くんの。

 それにすごい光ってる。まぶしい。

 ――これは光くん?

「わっ」

 周りを確認しようとしたら、急に壁が上空高く吹っ飛んでいった。
 集まっていた生徒たちの姿があらわになる。

 ――待ってください、加賀美先生も何かやってませんか? 絶対、いま目隠し用の壁吹っ飛ばしたの先生ですよね?

 後ろに立った先生に文句を言いたいけど、振り向いている場合じゃない。

 まばゆい光を放ちながら激しく燃えさかる人形がガタガタと揺れ始める。
 なんだか嫌な予感がすると思ったら、それはパンッと弾け飛んだ。

 瞬間、誰かの加護が私を透明なバリアで囲う。
 視界を巡らせるとにこっと笑う灯くんと目が合った。

 東条くんもふんっと鼻で笑ってるし、闇くんも満足そうにこっちを見て頷いてるし、光くんも華麗にウインクしてきた。

 ――やめてくださいぃぃ! 目立ちたくないんですぅぅぅ! 気を遣ってくださるのは嬉しいんですが、生徒会四人の力なんか使ったら私がバケモノになってしまいますぅぅぅ!

「おかしいだろ、あいつ。悪魔なのに、魔力と加護、どっちも使えてたぞ?」
「た、ただ者じゃねぇ」

 時すでに遅し、もう周りから怯えられてます。