「え……あ……」

 みるみる青くなる門松さんの顔。
 震える唇からは何も言葉が出てこなかった。

「それが答えだな」

 東条くんは怖い顔で門松さんを引っ張るように、人が多いところを目指し始めた。

「やめて! ごめんなさい! 私が悪かったから! やめてください!」

 泣き叫ぶ門松さん。
 でも、東条くんは彼女を赦す気はないらしい。

「俺らのモノに手出しやがって、危険因子は全部消すんだよ」

 怒ったように冷たいオーラをまとったまま中庭まで来て、彼は大勢の前に立った。

「おい、この人間くれてやる。成績を上げたいやつは密告しろ」

 門松さんを芝生に転がした東条くんの声は、お腹の底から響くような冷たい声だった。

 彼は本当に無慈悲で冷徹で残酷な悪魔だ。

「人間だ!」
「密告しろ!」
「成績が上がるぞ!」

 貪る悪魔組の生徒たちも怖かった。
 門松さんの姿は人の群れに飲まれて、すぐに見えなくなった。

 私は生徒会の他の三人と後ろから見ていた。
 東条くんの悪魔的オーラが強すぎて、何も口出し出来なかった。
 ううん、密告されてショックだったことを思い出して、止めようという気持ちも消えてたけど、私も立派な悪魔組なんだなと思う。

「俺が怖いか?」

 冷めた漆黒の瞳で私を真っ直ぐに見つめて、東条くんは言った。

「いえ……助けてくださって、ありがとうございました」

 春だといっても、あのまま居たら、さすがに夜中は寒かっただろう。

「あの、どうして俺のために来てくれたんですか?」

 疑問に残るのはそこだ。
 生徒会のメンバーにとって、私はそんなに必要とされてないと思った。
 だから、なんで総出で探しに来てくれのかなって。