天使組と悪魔組の棟を繋ぐ渡り廊下を歩いているときだった。
 誰かが前から手を振りながら近付いてきた。

「おー、雪よ。何してんだ? こんなところで」

 京極くんだった。

「京極くん、さっきぶりですね。俺は散歩してただけです。京極くんは?」

 天使組の方から歩いてくるなんて、そっちの行動のほうが気になる。

「オレは甘使先生の荷物持ちしてきた。すげぇ重たそうな買い物袋持ってて、放っておけなくて。そういえば、お前、今日、オレの部屋で寝るんだろ? 一緒に帰ろうぜ」

 京極くん、やんちゃだけど、面倒見いいんだな、きっと。
 だって、まだ出会って二日目の私にもこうやって声を掛けてくれる。

 でも、まだ帰りたくないな。
 いまは頭の中がぐちゃぐちゃだ。
 もう後がない。
 私を人間だと疑う子がいなくなったわけじゃないんだ。

「どうした?」

 綺麗な赤い瞳に顔を覗き込まれて、どきりとする。

「ごめんなさい、まだ帰れないんです。先に帰っててください」

 彼とすれ違って、私はまた目的もなく歩き始めた。
 どのくらい歩けば、頭の中、空っぽにできるかな。

 京極くんは私の後を追ってこなかった。
 別に追う理由がなかったからだと思う。

 そう思ってたのに

「やっぱ帰ろうぜ。お前、なんか放っとけねぇ顔してるし」

 京極くんは見た目によらず世話焼きなようです。

 いつの間にか隣に並んでて、一緒に寮まで歩いてくれた。
 ありがとうって言える元気がなくて、沈黙のままに京極くんの寮の部屋に着いちゃったんだけど、彼は何も言わなかった。

「雪、夕飯、まだだよな? 何食いたい?」

 ただそれだけ言って、私をソファに座らせる。

「え? 京極くんが作ってくれるんですか?」

 悪魔界の御曹司と噂の京極くんが料理をするなんて考えてもみなかった。
 というか、なんで本当に私なんかにこんなに良くしてくれるんだろうか。