ぁああああ、走っても走っても校門に辿り着かない!

 ベタ中のベタだけど、道で転んだおばあさんを助けてたらこんな時間になっちゃった!

 今日は入学式なのに、もう鐘が鳴ってたし、門が閉まっちゃったかも!

 もう半分泣きそう……! ううん、泣いてる……!

 地味な黒縁メガネの下で半ベソをかきながら、私は角を曲がった。

 学園を囲った金色のしっかりとした背の高い柵が永遠に続いているように見える。

 ――もうダメかも……。

 そう思ったときだった。


「なにやってんだ? 入学式遅れるぞ」


 後ろから声をかけられて、私はそちらを向いた。

 私とは違う黒いブレザー。

 ひと目でこの学園の生徒だと分かる。
 組は私とは違うみたいだけど。

 それに艶のある黒髪と漆黒の瞳。

 顔が良すぎて、近寄りがたい。

 でも、今はそんなこと言ってられない。


「え、えっと、校門どこですかぁぁあああ!」


 思わず、私は彼に泣きついた。


「反対側だぞ?」
「うへぇぇ、嘘ぉぉぉ、もう終わった……」


 女子としては汚い叫び声を上げながら、私はそこにへたりこんだ。

 もう制服が汚れるとかそんなの気にしてられない。

 それにいまの私は女の子じゃない。


「諦めんな。柵を跳び越えればいいだろ?」
「無理です、そんなのぉぉ」


 易々とそんなことを言う彼に嘆く。

 無理だよ、そんなの人間じゃない。


「これだから低能な天使は嫌なんだ」


 私のぼさっとした前髪の向こう側で彼が嫌そうな顔をしたのが分かった。

 白い制服を着た私はたしかに天使に見えるかもだけど、ごめんなさい、人間なんですぅ。


「ほら、掴まってろ」
「わわっ!」


 急に何をするのかと思ったら、彼は私を肩に担いで、少し後ろに下がった。

 なんか嫌な予感がする。