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「頑張れよー」

 と気の抜けたエールを加賀美先生に送られながら、私は生徒会の寮に再び足を踏み入れた。

「遅かったな、逃げ出したのかと思ったぞ」

 そう言ったのは東条くん。

 エントランスのソファには四人が座っていた。
 結構時間が掛かったと思うのに、みんな部屋に入ってなかったんだ?

「すみません。加賀美先生と話をしていて」

 メガネをくいっと上げながら、私は彼らに近付いた。
 偏差値の高い顔面が私を一斉に見つめてくる。

「君がいない間に僕たちで部屋割りを決めさせてもらったよ」

 西園寺くんが言って、どきりとする。
 私、一体、誰と一緒の部屋になったんだろう。
 この中だったら、優しそうだから天使組の二人がいいけど。

「君は晩と一緒の部屋だ」

 ガーンと大きな鐘が頭に落ちてきたような衝撃だった。
 悪魔と同じ部屋……。
 しかもなんか一番冷たくて口悪い東条くん。

 このがっかりをなんとか隠すために「はあ」と間の抜けた返事をする私。

「まあ、今日はね。毎日ローテーションってことにしたんだよ」

 伊集院くんが順番に東条くん、京極くん、西園寺くん、そして、自分と指差した。
 よかった。いや、よくはないんだけど。
 とりあえず、優しいターンもありそう。

「お、お世話になります」

 そう言うしかないじゃん。
 だって、普通の寮に行ったらいじめられるとか加賀美先生が言うから。

「じゃあ、こっち来い」

 東条くんに呼ばれて、彼の前に立つ。
 あの、その手に持ってるのって……

「これでよし」

 腕章ですよねぇ! これっ! 今私のブレザーの腕につけたやつ!
 なぁあああ、もうこんなの首輪じゃないですか!

 東条くんがつけた腕章には『親衛隊隊長』と黒地に赤い字で書かれていた。

「わぁ、なんか似合うね、雪ちゃん」

 伊集院くん、キラキラの笑顔で喜んでるところ悪いんですが、これ、そんなに気分良いもんでもないですよ? 似合ってて、全然嬉しくないです。

「あり、ありがとうございます。伊集院くん」
「んー、灯でいいよ」
「どうもです、灯くん」

 灯くんは男の子にしては話しやすいし、助かる。
 この腕に引っ付かれなければ、もっと。

「おい、こいつは今日、俺の部屋で寝んだよ。横取りすんな」