一人は、愛故に全てを敵に回し。
 一人は、愛故に全てを受け入れた。
 一人は、愛故に心を閉ざし。
 一人は、愛故に心のまま従った。



 この世で最も美しく。
 この世で最も純な醜さ。



 他者を犠牲にするか否か。
 それぞれ思惑は違えど、行きつく願いは同じ。

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「さぁ――賭けをしよう」



 あいつは言った。
 彼女が自分のモノになるか否かを見定めようと。
「言っておくが、本当に呪いがあるのは命華だ。それが最も強力に現れるのが――赤の命華だ」

 しかし、やつはそれがどんな呪いなのか言わない。本当は知らないんじゃないかと思ったが、話を聞くにつれ、赤の命華が不幸になるのだけは理解した。

「このままでは……姫は、確実に死ぬ。覚醒の気配があるが、力の加減がおかしい。おそらく、前に【影】とでも接触したのだろう。姫の中には、力を食い殺すモノが蠢いておる」

 だから手を打たねばな、とあいつはオレに短剣を渡した。



「それで――姫の心臓を貫け」



 一瞬、短剣を握った手が震えた。
 怒りで刺してやりたいと思っているのに、体は、思うように動いてはくれない。ただあいつと視線を合わせ、話を聞くしか出来ないでいた。

「貫いたなら、その血を箱へと注げ。そうすれば――レイナは解放される。いいな? 姫を助けたいと思うのなら、我の指示に従え。そうすれば、共にいられるようにしてやろう」

 こんな甘い言葉、信じる価値なんてない。
 約束など守るやつじゃないと知っている。知っているのに……



〝オレだけの為に
       存在してほしい〟



 あいつと同じように、醜くなり果てようとしている自分がいた。



「わかり、ました。――――姫の血を、貴方に捧げます」



 視線の先には、彼女の姿が見える。
 昨日から全く目を覚まさず、あいつの力か、薬が強すぎた為に、もう起きないのではと心配で堪らない。



 手を伸ばせば届くのに。
 足を動かせば近付けるのに。



 やはりオレには、壊すことでしかお前に近付けないらしい。



 それがオレという証。
 生きている行動の原点。



 だからオレは――至高の花を、完成させるしかない。