「――だったら、変えればいい」



 力強く、男性は言葉を続ける。

「言ったでしょう? 私は味方だと。アナタが変えたいと思うなら……私も、力になります」

「……本当、あなたは優しいですね」

 途端、目の前を突風が吹きすぎる。
 それに身を硬くしていれば――景色が、段々と消え始める。そして目の前が暗くなるにつれ、ここまでなのだというのを理解した。

 ――――――――――…
 ――――――…
 ―――…



「――――目が覚めたか」



 怪しい笑みを浮かべ、男性が私に話しかける。

「生きていて何よりだ。丸一日起きぬから、このまま目覚めぬのではと心配した」

「っ、ぁ……」

 言葉が……出てこない。
 何が起きているのかわからず、私は男性を見た。

「まだ、横になっていた方がいい。これから、薬を入れるのだから」

 そう言って、私の近くに別の男性がやって来る。袖をまくりあげると、男性は私に、何かを注射した。



 ……ドックン。



 心臓が、大きな鼓動をたてる。
 体の中をなにかが浸食していくような、嫌な感覚。



 ……ドックン、ドックン。



 鼓動が、速さを増していく。
 体中が熱を帯び始め……細胞の一つ一つが、焼けるように感じられた。



「さぁ、本来の姿に戻るといい。――赤の命華である、本来の姿に」



 意識が……朦朧(もうろう)とする。
 焼けるような熱さに、私は身をよじった。

「上手くいっているようだな。――叶夜、姫を運べ」

 そばに来たのは、無表情の叶夜君。
 大丈夫? とか、色々話しかけたいのに……。声も体も、思うように動いてはくれなかった。

「我の後に続け」

 頷くと、叶夜君は私を抱え、男性と共に外へ出た。
 その間にも、心臓は狂ったように高鳴り、息が詰まりそうなほど、呼吸も乱れていた。
 叶夜君……また、戻っちゃったんだ。
 私の顔なんて一切見ず、ただ前だけを見て走って行く。



「――――ここでいい」



 男性が足を止める。
 そこには大きな滝があり、私たちはその裏を歩き、奥へ進んで行った。

「ここから先は、お前一人で行け」

 頷くと、叶夜君は男性に私を託し、一人奥へと進んで行った。

「な、に……きょう、や君は」

「何をするのか知りたいか?」

 怪しく微笑む男性。
 なんとか頷いて見せれば、男性は楽しげに語り始めた。

「叶夜は今、箱を取りに行っている。それには大きな力と、我の求める者が封印されている」

 ――――は、こ?
 目の前に、いつかの夢の光景が見える。
 長い黒髪の女性が持っていた物。男性が言ってるのは、その箱なんだと理解した。

「だが、我では箱に触れられない。故に、叶夜を行かせたのだ。――ま、無傷では済まぬだろうがな」

「っ!? そ、んな……っ」

 傷付けないって……言ったのに。
 また叶夜君がケガをするのかと思ったら、体は少しだけ、私の思うように動いてくれた。

「やめ、て……。傷付け、ない、でっ」

 男性の服を、力の限り握る。
 でも実際、それほどの力は入っていないようで。私が抗う様子を、楽しげに見ていた。

「これは、叶夜も望んだことだ。呪いを解放する為――それは命華である、お前の為でもあるのだぞ?」

 男性は、何を言っているのか。
 まるで私にも、呪いがあると言っているように聞こえた。