「そっか。じゃあ、意味は知ってるか?」

「意味って、名前の?」

「知らないみたいだな。意味をわかったうえで、名前を呼んでほしい」

 頷くと、叶夜君はもっと近付くようにと言う。それに従うと、私の頬に片手を添え、



「オレの名はノヴァ。――新しい、星の意味を持つ」



 耳元で、いつもより艶がある色っぽい音声で囁いた。普段とは違うその声に、私は一気に心臓が跳ね上がった。
 胸の奥から、きゅんとするような。痺れるような初めての感覚が、体中を駆け巡っていた。

「わかったか?」

「は、はい……」

「じゃあ、少し離れてくれ」

 それに従い、叶夜君から距離をとる。

「それぐらいでいい。――名の意味を連想しながら、自分の所に来いと呼んでくれ」

 ただ、名前を呼ぶだけなのに――。
 やけに心臓がドキドキする。真っすぐ見つめられているせいか、徐々に緊張感が、体を支配していく。
 数回深呼吸すると、意を決して、私は名前を口にした。



「ノ、ノヴァ……私の所に来て!」



 頭に、名前の意味を思い浮かべながら言う。すると、自分の左手に、熱が帯びはじめるのを感じた。

「? これっ、て――っ?!」

「うわぁぁぁああーーー!!」

 叫び声と共に、鎖が引き千切られる。
 それに驚いていると、一瞬にして、視界が遮(さえぎ)られた。何が起きたかわからなくて、その場にじっとしていれば、

「契約……しといてよかった」

 安堵の声が、耳元で聞こえた。
 体を包むようにある腕に、ようやく私は、抱きしめられていることに気付いた。

「その名で命令すれば――オレは、逆らうことが出来ない」

「そ、そんな大事なことを!? 私なんかが、命令だなんて……」

「気にするな。お前だからこそ……契約を、したいと思った」



 私、だから――?



 途端、顔が熱を帯び始めた。心臓がバクバクと激しく暴れて、自分でもよくわらない感情が心に渦巻いていく。
 


 それは、抱きしめられているからか。
 それとも、今の言葉を聞いたせいか。



 わからない答えに、私は頭を悩ませた。

「そういえば……なんでドレスなんか」

 自分で着たのかと聞く叶夜君に、私は違うと言い首を横に振った。

「これは……気付いたら、着せられてて」

 まじまじと見つめてくるものだから、私は恥ずかしさに耐えかねて、顔を背けていた。



「――――綺麗だな」



 すうっと、片方の頬に手を添えられる。俯こうとする顔を、叶夜君はくいっと自分の方に向けさせ、



「まるで――結婚式だな」



 嬉しそうに、そんなことを言った。
 け、結婚式って……。
 私とを想像したってこと?
 何も言えない私に、悪戯っぽく微笑む叶夜君。その顔を見てしまえば、余計に返す言葉が出てこなかった。



「本当に……綺麗だな」



 頬に添えられた手が、ゆっくりと移動する。それは私の唇に移動し、指でなぞられていった。
 思わず、私は顔を背けた。
 あまりにも緊張して、もうまともに、叶夜君を見れない気がする。