「では、準備をしてこよう」

「な、なら私は、ここに……」

「ここに残ると、そう言いたいのか?」

 私は、無言で頷いた。
 断られるかと思ったけど、男性は意外にも私がこの部屋にいることを許してくれた。軽く会釈すると、男性は部屋を出て行く。
 途端、それまで気を張っていたのか。ぺたんと、その場に座り込んでしまった。



「きょ、叶夜、君……大丈夫?」



 その呼びかけに、叶夜君は虚ろな目で私を見た。
 あれ? この表情、どこかで――。
 脳裏に過ったのは、断片的に覚えていた夢の景色。それがクリアになるにつれ、体の奥から何かが込み上げてくる気がした。
 まさか……また、発作なの?
 こんな時に、自分が悪くなんてなっていられない!
 その思いで、弱りかける体に喝を入れた。そして立ち上がると、ゆっくり叶夜君のそばへ近寄って行った。

「…、……っ」

 そばに行くと、叶夜君は喘ぐような声で、何か言っていた。でも、ハッキリとしない言葉に、何を言っているのか聞き取れない。耳を近づけ聞き取ってみると、

「にっ、げ……君、はっ……ダメだ、から」

 苦しそうな声で、私の身を案ずる言葉を呟いた。

「ダメって言われても……このまま放っておくなんてこと」




〝だったら――血をあげればいい〟



 不意に、そんな声が頭に響いた。

〝彼を救える。――あなたが、それを望むなら〟

 声に比例するように、心臓が大きく高鳴り、体中が熱くなる。

 血をあげれば……本当に、叶夜君を救えるの?

〝彼を救える。――あなたが、【赤の命華】を受け入れれば〟

 ……それで助かるなら、私は受け入れる。
 それでみんな、助けることができるんでしょ!?
 必死に、頭の中で聞こえる声に訴えた。すると声は、どこか悲しげな声で、

〝大事なモノを失っても……後悔はしない?〟

 と、そんな言葉を言った。
 大事なもの――? それって。

〝赤の命華になるということは、【大事なモノを】失うということ。――さぁ、あなたはどうする?〟

 ……私、は。
 ぎっ、と歯を食いしばる。
 何を失うかわからないのに、簡単に頷くことなんて――でも。

「あ、ぐ……、っ、はっ、あ」

 目の前で苦しむ叶夜君を、放ってなんておけない。
 わからない何かを失うより、今目の前にいる友達を失う方が、ずっとずっと怖い!



 受け入れる。だから早く、叶夜君を助けて!!



〝――やっぱり、私は私、なのね〟



 どこか嬉しそうな声が聞こえた途端――心臓が、一際大きな音をたてた。
 体中が、沸騰しているんじゃないかってほど熱い……。
 かと思えば、今度は急に寒くなって。
 私は力いっぱい、自分の体を抱きしめた。



〝――――後悔、しないでね〟



 その言葉と共に、体の異常も消えてしまった。
 何か……変わったの、かな?
 特に変化を感じないけど、これで助けられるなら。