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 薬を絶って、三日目の朝。
 体はよくなってきたけど、私の心は、まだ沈んだままだった。
 原因は、昨日見た光景と、お姉さんのあの言葉。どうにかしたいけど、自分になにができるのかって。

「――――日向さん」

 ドアの外から、先生が呼びかける。返事を返せば、先生は食事を運んで来てくれた。

「気分がのらないでしょうが、少しは食べた方が、体の為ですよ」

「……わかっては、いるんですけど」

 やっぱりまだ、そんな気分には。
 先生にはもう、昨日のことを話してある。契約のことは予想していたらしいけど、お姉さんのことはとても驚いていた。

「では、机に置いておきますから、気が向いたら食べて下さいね」

「はい、ありがとうござます。――先生」

「どうかしましたか?」

「ちょっと、聞きたいことがあって……」

 言葉に詰まると、先生は急ぐことはないと、優しい笑みを見せてくれる。
 数回深呼吸した後、私はようやく、疑問を口にした。

「私には……何ができるんでしょうか? 命華なのに、花の作り方もわからないですし、自分の身を護ることだって」

 ぎゅっと、毛布を握る手に力が入る。
 自分の無力さに、嫌気がさしてしまう。



「――花を作れる方なら、いますよ」



 聞こえたのは、意外な言葉。思わず間の抜けた声を出せば、先生は神妙な面持ちで、話を続けていく。

「しかもその方は、命華と親しい間柄でした」

「その人が作る花は……命華と、同じなんですか?」

「今は違うようですが、元は同じだったと聞いたことがあります。幸い、その方とは数日前にお会いしました。貴方の調子が戻り次第、その方に会いに行きましょう」

 もしかしたら、花を作ることができるかもしれない。
 そうしたら、叶夜君や雅さん。お姉さんや他のみんなも、助けることができるかもしれない!
 そう思ったら、胸のつかえが和らいでいく気がした。

 *****

「――調子はどうだ?」

「薬が効いてきたようです。今ではもう、反抗する気配もないと聞いています」

「気は抜くな。念には念を入れておけ」

「はい。既に手は打ってあります」

「ならばよい。――調整が済み次第、迎えに行かせろ」

「確か、他に命を出してあると聞いていましたが」

「あれは役に立たん。血は集めるが、肝心なのを持って来ぬ。まあ、抜け駆けせぬのはいい心がけだがな」

「彼にそのような気は起こせませんよ。起こせばどうなるか、彼が一番理解しているでしょうから」

「健気なことだ。その願いは、報われることが無いというのにな」

「そうですね。彼の願いは、とうの昔に費えています。支えであるものを失っては、生きる意味を無くしてしまうかもしれませんね」

「ふふっ。我としては、望ましいことだがな。――頃合いだろう。様子を見て来い」

「かしこまりました」

 一礼すると、少年は部屋を後にする。向かうは、実験が行われている場所。



「至急、命華を連れて来いと、ディオス様の命です」



 実験室に来るなり、少年はベッドに横たわる人物――叶夜に命令を告げた。

「人目に触れることなく、慎重にことを進ませるようにと。いいですね?」

「――――」

「聞こえないのですか? ディオス様のお望みなですよ?」

「――――了解、しました」

 ゆっくり体を起こすと、叶夜は覇気の無い返事を返した。