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――やるなら、今しかない。
彼女の元へ行き、本来の目的を果たそう。
その為には、再び心を閉じる必要がある。
「本当――感情は余計だ」
この時ばかりは、父親の言葉に頷いてしまった。
この気持ちを理解すれば、俺は俺でいられない。護るべき人を護れず、恩を返すことも出来ないだろう。
やることは簡単。ただ、彼女を差し出せばいいだけのこと。そうすれば、護りたい者を護れる。
――だが、本当にそれでいいのか?
彼女は、それを望む人ではない。何より、差し出された彼女はどうなるか。
他人など関係無い。そう教えられたはずなのに……。
特別な思いを。
特別な相手を。
よりにもよって、抱いてはいけない人物に抱こうとしていた。
「――――失敗作、だな」
なかなか、整理がつかない。このまま行って彼女に会ってしまえば、更に迷いが生じてしまう。
どうせ、戻らなければいけないんだ。今は頭を冷やす意味も込めて、自分の世界に戻ろう。
◇◆◇◆◇
「―――目が覚めましたか?」
声の方を振り向けば、そこには白いYシャツにスーツのズボンを履いた男性が。一瞬知らない人かと身を硬くしたものの、それが先生だとわかった途端、一気に緊張が解れた。
「気分はどうですか? うなされていたようですが……」
「……ちょっと、よくないです」
そう言うと、先生は私の額に手を当てる。熱がないことを確認すると、安心したのか、安堵の表情を浮かべた。
「実は昨夜、怪しい気配が近付いていたので、寝ている間に、私の自宅に移動させてもらいました」
すみません、と先生は謝罪する。
「体は、まだ痛みますか?」
「はい……痛い、です」
起き上がれそうもないので、横たわったまま先生に言う。
「話すのも、無理はしないで下さい。――少し、話を聞いてもらっても構いませんか?」
雰囲気から、大事な話なのかと察した私は、頷いてそれに答えた。
「ありがとうございます。石碑での時は時間がありませんでしたので、続きをと思いまして」
詳しい話が聞ける。そう思ったら、私の手は自然と、シーツを握りしめていた。
「キョーヤから多少は聞いたかもしれませんが、まずは、私たちについて説明しますね。王華と雑華、これは元々、【カルム】と呼ばれる一つの種族でした。ですが、カルムの中で呪いを持つ者が現れてしまい、それから種族は、二つに分かれたと言われています。
ちなみに、私はカルムの中でも始祖――古い血筋の、二つの種族の祖にあたります。幸い、感染は無いまま、ここまでこれています」
「王華と雑華は……どう、違うんですか?」
「血を吸わなければ生きれない、という点では、どちらも大差はありません。ただ、雑華の方が、呪いの進行が早いようですね」
どちらも変わらないなら、どうしてわざわざ、分れる必要があるんだろう――?どちらも呪いがあるなら、協力して道を探ればいいと思うんだけど。
「何か、疑問がありますか?」
気になることは聞いて下さいと言う先生に、私はゆっくり疑問を口にした。すると先生は、それは出来ないことなのですよ、と悲しげに言う。
「確かに、呪いがあるのは基本的には同じですが――元々、王華は純血を重んじる者たちの集まり。対して雑華は、人や他の種族と子を成していました。それが王華から見ると、とても不快なものだったようです」
「元は同じなのに……酷い」
「えぇ、全くです。ただ、産まれながらの雑華もいます。感染しても発症を抑えられれば、ある程度は普通に生活が出来きますから。とは言っても、寿命は平均より低いですけどね。一応、子供を産むことも可能です。その場合、その子は産まれながらに雑華ということになります」
「治療する方法は……無いんですか?」
「……今のところは。ですが」
先生は私を見つめ、真剣な表情をする。
なにがあるのかと思っていると、重々しく、その口を開いた。