――うるさい。
 ――頭が痛い。



 光の無い場所で、私はもがいていた。
 ここから出たいのに、出て行けない。
 本当は出ていけるのに、許されない。



 まだ――私が私でないから。



 時代が。
 周りが。
 私を必要とするまで、〝出て行けない〟。
 嫌だけど、その理由を知っているから――私は、〝出てはいけない〟。



 ううん。きっと本当は――。



 ――――――――――…
 ――――――…
 ―――…

 目覚めると、全身を気だるさが襲った。起き上がろうにも、体はなかなか動いてくれなくて――しばらく、天井を仰いでいた。
 今日のは、いつも見るような夢とは違う。誰かに話しかけられたような気がするけど、そこに声の主はいない。
 覚えてるのは……〝許されない〟という言葉と、果てしなく続く世界。同時に、どこか閉じたような、閉鎖的な感覚を抱いたぐらい。
 ――コンッコンッ。
 ドアを叩く音が聞こえる。おじいちゃんが来たのかなと思っていれば、部屋に入って来たのは意外な人物だった。

 「――まだ、具合はよくないようですね」

 心配そうな表情をした上条先生が、顔をのぞかせた。

 「ここが何処だか、分りますか?」

 首を傾げれば、やはりですかと、先生は呟く。
 「今朝、おじいさんから連絡を頂きましてね。どんなに呼びかけても起きないとのことでしたので、病院に来てもらいました」
 周りを確認すれば、ベッド周りには白のカーテン。よく見れば天井も部屋の物とは違い、今更ながら、病院だということを理解した。

 「やっぱり……どこか、悪いんですか?」

 「いえ。ただ、アナタの中の力が、溢れ出そうになっているようですね」

 そう言えば、雅さんもそんなこと言ってたっけ。一時的に乱れてる、みたいなこと。

 「それと、気になっていたのですが――これは、何処で手に入れたのですか?」

 私の右手にはめられたブレスレットに触れ、先生は問う。

 「夢で。――女の人から、貰いました」

 「夢、ですか? 詳しく、話してもらえませんか?」

 言われて、私は夢の話をした。すると先生は、みるみるうちに表情を曇らせていった。

 「確かに、それは現実に起きた出来事です。なるほど、アナタにはそのような力もあるのですね。でもきっかけが……いや。石碑でのあれが刺激に。それとも彼らとの接触?」

 納得したのか、先生は頷く。その後は一人で、なにやらぶつぶつと言っている。

 「そろそろ、止める時期なのかもしれませんね」

 「止めるって、なにをですか?」

 「薬ですよ」

 薬、って――。
 何を、言ってるの?
 言われた言葉が理解できなくて、すぐに反応を示すことができなかった。そんな私を気遣ってか、先生は薬を止める理由を話していく。