「よかったぁ。電話かかったと思ったら、なにもしゃべらないからさ。――強引に侵入しちゃった」

 ごめんね、と苦笑いを浮かべながら雅さんは言う。
 握られていない手を見れば、そばにはスマホが。見ると、私は確かに電話をかけていた。

 「それで? なにがあったの?」

 手に、少し力が込められる。それだけ心配しているのか、私を見つめる眼差しは、とてもやわらかなものに感じた。
 何か見ていた気がするけど、あまり思い出せない。

 「――すみません。こんな夜中に来てもらったのに、何も無いだなんて」

 「な~んだ。ってきり添い寝でもしてほしいかと思ったのに」

 にやり、と笑みを見せたかと思えば、もう片方の手も、素早く握られていた。

 「このまま帰るのも勿体ないし――どうしよっか?」

 ん? と、私の様子を見ながら、悪戯っぽい笑みが近付いてくる。

 「みさ~きちゃん。どうしたいのかなぁ~――?」

 楽しそうに手を握っていた雅さんの表情が変わる。その視線の先は、私の右手に注がれていた。

 「これ……どうしたの?」

 言われて、私も右手を見る。すると、そこには夢の女性から貰ったブレスレットがはめられていた。
 あれは、本当に本物――?
 これを見てしまえば、あのことがただの夢じゃないと信じないわけにはいかない。



 「――夢で、貰ったんです」



 ゆっくり口にすると、雅さんは真剣な眼差しを向ける。

 「現実で貰った、ってわけじゃないんだね?」

 「はい。信じられない話なんですけど……。夢で会った女の人に、貰ったんです」

 一瞬、雅さんの眉がぴくりと動く。

 「その人……他に、なにか言ってた?」

 声のトーンが、低くなる。いつもと違うと思ったものの、今はそのことを気に留めず、私は質問に答えた。

 「今見ているこれは、現実だって。それと――『エルに見せて』って、言われました」

 「――――余計な、こと」

 俯く雅さん。どうしたのかと思っていれば、



 「――――オレ、帰るよ」



 急に立ち上がり、雅さんは振り返ることなく、素早く窓から出て行った。
 どうしたんだろう――?
 何かまずいことでも言ったのかと思いながら、私はしばらく、開け放たれた窓を見つめていた。しばらくそうしていると、睡魔が徐々にやってきて――私はベッドに体をあずけた。