真っ赤に染まった地面を見てから数日。
 危険な目に合うこともなく、平和な生活を送っているのだけど――気になることがあった。それは、叶夜君のこと。あの日から見かけることがなくて、やっぱり……私が怖がったから、だから話したくないのかと、教室の窓から外を眺めていた。

 「美咲~? お昼行かないの?」

 「あ、うん。――今行く」

 杏奈に誘われ、一階にある食堂へ向かう。
 気を遣ってか、色々な話題をふってくれているというのに……心は、上の空だった。
 本当、どうやったら話してくれるんだろう。
 まずは避けられないようにしなくちゃだけど、こっちから行こうにも居場所なんて知らないし、向こうから来てくれるまで待つしかないのが現状なんだけどね。
 そして、少し憂鬱なまま食堂のドアを開けると、



 「「「キャ~~~!」」」



 入るなり、女子生徒の黄色い声が聞こえた。

 「一体……何があったのかなぁ?」

 「こんなこと初めてだもんねぇ。――すみませ~ん!」

 すぐさま、杏奈は近くにいる女子に事情を聞いた。話によると、最近転校してきた男子が格好いいとかで、その男子が、今ここに来ているらしい。

 「へぇ~。そんなに格好いいんだ」

 「そうみたい。なんかさ、ここまで人だかりがあると――見たくならない?」

 「まぁ、ちょっとはね」

 「なら決まり! ほら、早く早く!」

 手を引かれながら、輪の中心へ近付いていく。
 思ったより人だかりができていて、私は背伸びをしてもなかなか見ることが出来ないでいた。

 「ん~……見えないね」

 「こうも見えないと、意地でも見たくなってくる!」

 しばらくそうしていると、一人の男子が立ち上がった。

 「あっ! 美咲、あの人じゃない? 背高いねぇ~」

 そう言われ、杏奈が指差す方を見た。
 ……あれ?もしかして、あの男子。
 近くにいる男子たちよりも、頭一つ抜き出るほどの高身長。髪は淡い茶髪をし、その姿を見て思わず、

 「雅、さん?」

 と、もしかしたらと思う人物の名前を口にしていた。
 その言葉が聞こえたのか、男子は私たちがいる方を向く。まさかと思っていると、その男子は確実にこっちに歩いて来てて、

 「美咲ちゃ~ん!」

 食堂中に響くほどの大声で、私の名前を呼んだ。
 もうこの時点で、あの男子が雅さんだというのは間違いない。何でここにいるのかと考えているうちに、雅さんは目の前に来ていた。

 「美咲、知り合いなの?」

 「えっと……知り合いっていうか」

 「そっ。オレと美咲ちゃん、友だちなんだ。ねぇ~?」

 「っ?! ちょ、ちょっと!」

 突然肩を抱き寄せられ、思わず困惑の声をもらす。
 友だちと言うより、これじゃあまるで、彼女のようなスキンシップなのでは!?

 「み、雅さんっ。離して下さい!」

 「イイじゃんか。これぐらいおおめに見てよ」

 「そんなこと言われても……」

 私の言葉などお構いなしに、雅さんは更に密着してくる。頬を擦り寄せ、まるで小動物が甘えてくるような仕草。
 大声で名前を呼ばれただけでも恥ずかしいのに、人前でこんなことまでされて……もう、体中が熱くなりっぱなしだった。