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 なぜか、私は花畑にいた。
 白一面の花に、青く澄みきった空。
 確か、死んだらまずは花畑に行くって聞いたことがあるけど、もしかしてここがそうなのかなぁ?
 ずっと立っているのもなんだし、ちょっと歩いてみよう。



 草を踏みしめ、花の中を進んで行く。
 周りはとても穏やかで、私以外に誰かがいる気配は感じない。本当に死後の世界なんじゃないかって、そう思えてしまう。



 遠くに、人のカタチが見える。
 よかった。やっぱりここは普通の場所なんだ。
 近付いて行くと、そこにいたのは男の人。見た目からすると、私と同い年ぐらいじゃないかな。
 私に気付いたその人は、笑顔で私を見ている。会釈をすれば、その人は私のそばに駆け寄って来た。

〝――――〟

 何か言ってるのに、その音が聞こえない。
 どうしたらいいかわからないでいると、その人はジェスチャーで、私に手を前に出してほしいと伝えてきた。

〝――――〟

 片手を出せば、そこに、一つの丸い物を置かれた。ビー玉のようなそれに入っていたのは、小さな青い花。思わず、見惚れるほど綺麗な色合いをしていた。

〝――――〟

 男の人は、また、ジェスチャーでなにかを伝えようとする。どうやら、これを握ってほしいみたい。
 しっかり握ると、その人はとても嬉しそうに笑っていた。その顔を見たら、なんだかこっちまで嬉しくて。私も笑っていると、自然と、その人の手が私に触れる。男の人は苦手だけど、この人には、そういうのを感じない。
 来てほしい場所があるのか、こっちだと手を引きながら、どこかに案内し始めた。
 とても穏やかだけど、なぜか、少し悲しい。お互い笑顔なのに、なんだか複雑な気持ちが芽生え始めていた。



 ――歩いている先に、小さな白いドアが見える。辿り着くと、男の人は、私にノブを回すようにと伝えた。
 でも……回す為には、手を離さなければいけない。当たり前のことなのに、私はなぜか、手を離すことができなかった。

〝――――〟

 また、ノブを回してって言ってる。なかなか手を伸ばせない私に、その人は、一緒にノブに手を置いてくれた。ガチャリ、ゆっくりノブが回される。ドアを開ければ、奥にはまた、白い二つのドア。中は真っ暗だけど、怖いって感覚はない。進んでいくにつれ、なぜか、それまで離せなかった手を、私は自然と離していた。すると、ドアの奥から、目覚しの音が聞こえた。それを聞いて、これは夢なんだって安心した。
 私は左のドアの前に立ち、男の人は右のドアの前に。それぞれが位置につくと、お互い示し合わせたように、ノブに手を伸ばす。



「――ボクは大丈夫」



 明るい声。その声に、私は笑顔でドアを開けた。

 ――――――――――…
 ――――――…
 ―――…

 規則正しく鳴る音。目覚しを消すと、私は、どこか虚しさを感じた。
 何か聞こえた気がするのに……それが思い出せない。目を開けた時には、部屋の天井が見えるだけだった。

「――ニャ~」

「――本当、なんなんだろうねぇ?」

 ベッドで横になりながら、飼い猫のクロとじゃれる。
 幼い頃みたいに頻繁に入院はしなくていいけど、ここ最近は、ずっと部屋から出ていない。
 夢は、その人の願望や、その日に得た知識を記憶する為のものって聞いたけど、今日見た夢は、どちらにも当てはまらない気がするんだよね。

「ニャ~オ?」

「……心配してくれるの?」

 クロは、言ってることが本当にわかってるみたいに反応をしてくれる。大丈夫だよって言えば、頬に顔を擦り寄せ、隣で丸くなった。
 まだ起きれそうもないし、もう一眠りしよう。



「クロ――おやすみ」



 頭を撫でてから、私は目蓋を閉じる。
 気になる夢だけど、嫌な気はしない。でもできるなら、今度はきちんと、夢の内容を覚えておきたいな。



 あれは――ただの夢。



 でもその時、私の左手は、しっかりと何かを握っていた。