「自分で望んだにも関わらず、このような仕打ちをするのなら――考えがあります」

「む、村に災いをもたらすんじゃ……」

「私はそのようなことはしません。ただ――」

「やはり、何か仕掛ける気じゃな!?」

「私は二度と、あなたたちの村に関わりません」

 安心したと思ったら、それじゃ困る! なんて叫ぶおじいちゃんたち。なにもしないって言ってるのに、なにをそんなに騒ぐことがあるんだろう?

「自分勝手なことを言わないで下さい。力を与える前に言いましたよね? 愛情をもって接し、大事に育てるようにと」

「そ、そんなの、今と前とじゃ違うのよ!」

「どうしようもない人間だな」

 お姉さんの横から、今度はお兄さんが出てきた。

「俺は、彼女のように優しくない」

 その言葉を聞いたみんなは、すごく怖がりながら逃げて行った。



「ボクは……どうなるの?」



 おとうさんもおかあさんも逃げちゃったし、どうしたらいいかわからないよ。

「あなたがいいなら、私と一緒にいればいいわ」

「……怖いこと、しない?」

「しないわ。さぁ、帰ったらご飯にしようか」



 あの日から――この人の為に生きると決めた。



 育ててくれたからじゃない。
 この人は、みんなと違ってウソを言わなかった。知ってることなら答えてくれたし、ボクをふつうにしてくれた。
 大きくなるにつれ、今まで自分が持っていた力がどんなに怖いかってことがわかってきたけど、あの人を恐れたりはしなかった。



 ――でも、周りは違った。みんなあの人を嫌って、追い詰めて……ボクが見てる目の前で、あの人を奪った。



 だから――ボクは忘れない。
 どんなに生まれ変わっても、みんながあの人にした仕打ちを。



 あぁ……みんなが言ったことは当たってたんだ。
 だって今、ボクは悪魔に成ろうとしているんだから。

 ――――――――――…
 ――――――…
 ―――…



 ――――ゆ、め?



 今更、あの時のことを見るなんて思ってもみなかった。



「ゆっくり――眠るといいわ」



 頭をなでながら、誰かが言う。
 瞬きをすると、そこには微笑みながら、膝枕をしてくれているお姉さんが見えた。
 たくさん迷惑かけたのに、お姉さんは、ボクを責めない。初めて会った時と同じ。やさしくて、あたたかくて。消えていくのに、怖いって感じない。



「――、―――…」



 歌声が聞こえる。眠れない時、いつもお姉さんは歌ってくれたっけ。
 こんなにやさしくしてくれるのに……ボクからは、なにもできないんだね。
 お姉さんだけ幸せになれないなんて、やっぱりいやだ。



 消えるのはわかってる。
 人になれなくていいから。



 ボクに残ってる可能性を、お姉さんに――…。