あたりはもう真っ暗。
 さっきまであった夕日は消えて、夜が世界をおおっている。



「――――はっ、はっ」



 ボクは走っていた。後ろを気にしながら、何度も何度もふり返りながら。



「はっ、、、がっ――ぅ」



 息の吸いかたがわからなくなるほど、ボクは夢中で走っている。



 ――遠くから、遠吠えのような声が聞こえる。ボクを殺そうと、みんなも必死になっているんだ。



「――――見つけたぞ!!」



 もう逃げ場がなくなって、ボクは泣きながら、どうしてこんなことをするのか聞いた。

「お前は人間じゃないっ。バケモノだ!!」

 ボクのおとうさんが言う。

「悪魔の子は、生きてちゃダメのなのよ!」

 ボクのおかあさんが言う。
 みんなとボクと、なにが違うって言うの?
 見た目も同じだし、言葉だってわかる。今まで、そんなこと言わなかったじゃない。

「動物と話たりするのは異常なのっ!」

 そんな……よろこんでくれたじゃない。
 村のみんなも、ボクをすごいってほめてくれたのに。

「それだけじゃないっ。お前は心が読めるだろう! 悪魔の証拠だ!!」

 ボクにだって、どうしたらいいかわからないんだ。みんな、思ってるのと言葉にするのが違ってるから、なんでって聞いただけだよ?
 じりじり、みんなが距離をつめてくる。ボクを悪魔とかバケモノって言うけど――今のみんなのほうが、よっぽど怖いよ。



 ――ザンッ。



 なにかが、切れる音がした。
 でも、ボクはいたいって感じない。他の人がいたがる声もしないから、なんでだろうって思ったら――ふわり、誰かに抱えられた。
 ボクを叱る声は消えて、代わりに、やさしい声がボクに話しかけた。

「――大丈夫?」

 そう言ったのは、知らないお姉さんだった。

「約束を破りましたね。自分の子を、それも村中で殺そうなどど――」

 急に、みんなは慌てていた。
 お姉さん、えらい人なのかなぁ。

「だ、だってっ。その子、おかしいんですもの!」

「おかしいのはあなたです。自分で望んだはずですよ? 秀でた能力を持ってほしいと」

「そんなの頼んだ覚えはっ」

「これは、あなたが望んだからそうなったのです」

 なにを言われても、お姉さんは堂々としている。

「私はあくまでも、あなたが丈夫な子を産めるように力を与えただけ。確かに、多少は力が強いなどの効果はありますが――夫婦であるあなたたちが望んだから、この子はその力を持って産まれたに過ぎないのですよ?」

 その言葉に、みんなは動揺しはじめた。話はよくわからないけど、お姉さんがボクをまもってくれているんだっていうのはわかる。