「本当に……お前は自分勝手だ」



 顔を近付けると、睨みながら蓮華は続ける。

「自ら体を空け渡しただけではない。色々と仕込んでおきながら……私には黙っているなどっ!」

 胸倉を掴むと、蓮華は更に感情を露にした。

「名前も、お前が付けたのだろう? 叶う夜で叶夜……お前ともう一度出会いたい、それが叶ったこの夜を忘れないなどと、詩人のように語りながら口説いてきたこと、今でもはっきりと覚えているからな!」

 震え始める両手。感情は出来るだけ消して来たはずなのに、今の蓮華には、止められそうもなかった。



「護ると……誓ったくせに」



 消えそうな声。力が抜けたのか、蓮華は長にすがりついた。幾度となく見てきたとはいえ、大事な者が死に逝く姿は、やはり慣れることは無いようだ。



 ――ぽつり、涙がこぼれる。
 体を起こすと、蓮華は涙を拭いながら、高ぶる気持ちを鎮めていく。



 ――長の頬に、両手を添える。
 徐々に近付く顔。生まれて初めて、蓮華は自分から口付けという行為をした。

 ◇◆◇◆◇

 自分から戦うのは、これで二度目。最初のカタチだった時に使っていた物に無傷で触れられるかわからなかったけど、柄を握れば、しっくり肌に馴染んでくれた。きっと、創ったのが彼だからだろう。しかも、私に大きな力まで残して……本当、お人好しって言葉がよく似合う。



 空を見ると、いつの間にか黒煙が消えている。月も円を描き、見惚れるほどの輝き。そこだけ見れば、なんて平和な時間なんだろうと思える。



 ――短剣の柄が光る。準備が整った合図に、私はゆっくり長に視線を向けた。
 もう言葉はいらない。私たちには、この先が見えている。嫌がるあの子には悪いけど、ここまで大事(おおごと)にしたのだから、罰は受けなければならない。



「ヤッ…だ。――イヤなの、にっ」



 あの子から見ると、今の私は悪魔だろうなぁ。



「ごめんね。でも、私も一緒だから」



 告げて数秒後。床を強く蹴り、人型の背後に回る。まずは四肢の動きを絶ち、完全に肉体としての機能を止めた。
 次は前に回り、人型の顔を十字に切る。
 悲鳴を上げても、私の手が止まることはない。
 なんとか這いながら逃げる人型に、私は短剣を強く握り直した。



 ――この一撃であの子は。



 魂は壊れて、一から新しい存在に創り返られる。そうなれば、あの子が人になれるのは遠い未来――いや、二度と成れない可能性だってある。それだけ、あの子がした行為は重いものだから。



 ――足を進める。ゆっくり歩いているのに私の方が速くて、人型の前を塞いだ。
 みんなも準備ができたようだし、これなら安心してこの子を連れて行ける。