「あらわっ、れた。――至高の花ッ!!」



 叫びながら、人型は美咲に飛びかかる。だがいくら捕まえようとしても、美咲が人型の手の中に収まることはない。



「言ったはずです」



 人型の背後に回り込むと、美咲は耳元で囁く。



「これは、戦いに特化したカタチだと」



 尚も暴れる人型。体と同じく動きも大きい人型では、美咲の速さについて行けない。

「「ッ!? またジャマを!」」

 加えて、内側からくる自分と反した意思。あきらかに、人型と化した長は歩が悪い。勢いは衰え、一撃を繰り出すたびに数秒休むほど。本当に欲しい存在が目の前にあるのに、この手に出来ないじれんま。その思いが更に、動きのキレを悪くさせた。

「何故邪魔をするっ!?」

 攻撃を止め、自分の中にいる者に叫ぶ。

「ただ欲しいだけっ。お前たちも願っていることして何が悪い!!」

 その様を、眉一つ動かすことなく美咲は見ている。

「ここまで来たのにっ、終わるなんて!」

 駄々をこね続ける人型。声が変わったの聞き、美咲は告げる。



「夢は――終わり」



 ぴくり、人型は反応を示す。



「さぁ――帰りましょう」



 やわらかく語りかける声に、人型は思わず後退した。美咲のことは欲しい……手に入れたいのに。



「ヤダッ、よ……ボクはっ、間違ってない!!」



 泣き叫び、美咲を拒絶した。
 今の美咲には、レフィナドの体を奪った者――それの、本来あるべき姿を知っている。

「だからね、それはもうできないの」

「そんなことっ。まだボクはいる! またやればいい!!」

「それもできないの。もう、自分の体の異変ぐらいわかっているでしょう? あなたの中には、【抑止力そのものがいる】ってことを」

「っ!? だってあれはっ」

「いくらカタチを持って生きていたとしても、それが目覚めてしまった原因はあなたにある。抑止力を動かさない為に取り込んだ意識――彼はもう、あなたに味方していないのだから」

 がくん、と人型の頭がうな垂れる。



『わがままもここまでだ』



 人型の口を使い、別の声がする。



【君は、私たちと帰らなければいけない】



 また、別の声がする。
 どちらも、美咲には馴染みある声。長が二人に抗い叫んでいる隙に、美咲は短剣に力を込めた。