『これ以上のことが起これば、オレはお前の意思など関係無く連れ出すからな』



 自分は、もう思い出してしまった。呪われる理由も、疎まれる理由も……全ての発端は、この声の存在と関わったことに始まる。でも、それを後悔などしない。この出会いは、自分にとって悪いものではなかったのだから。



『時間など関係無い。だからいつでも呼べ。――いいな?』



 それは、自分を護ろうとしてくれた。輪廻を繰り返せたのも、それの力が働いているおかげ。
 それは、とても清らかなで無垢な存在。だからこそ、人間の悪意や穢れを一身に受け止めてしまった。



 これ以上……負担をかけてはいけない。



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 目を開けると、蓮華さんの姿が見えた。近寄るも、まるで俺の姿など見えないかのように話を進めている。――ふと、自分を見た。体はあるのに、何故かぼんやりとして定まっていない。周りが俺に気付かないことを考えると、自分は今、意識だけでこの場にいるということか。



「なんだ、やはり壊されては堪らぬか?」



 声の方を見れば、蓮華さんが美咲に短剣を向けている。だがそれは、意識だけの存在になった長に受け止められていた。

「このままでは、美咲の魂は消える。一つになることが望みなのか?」

 俺は元々無いからいいが、美咲には体が必要だ。
 近付くも、長が俺に気付く様子は無い。こういう時、意識だけというのは都合がいい。
 この氷は……蓮華さんのか。
 体がある時なら厄介だが、今の状態なら関係無い。――氷を抜け、美咲に触れる。魂はまだ繋がれているが、出てくる気配が無い。



「「我ノダ! 渡サナイワタさない……誰にも渡さないっ!!」」



 大声がしたと思えば、周りを長が囲っている。まるで、赤ん坊が母親から引き離されるのを嫌がるように。必要以上に執着する長は今、意識に乱れが生じていた。
 おそらく、美咲が出られないのはこれのせいだ。体を覆っている樹脂のようなそれには、力の気配を感じる。出すには、やはりあれに入るしかないな。

『コン、ナ。コトッ――…』

 氷を出ると、長とは別の、聞き覚えのある声がした。

『チガ…、、コンナッ、ノ』

 そうだよな……お前がこんな美咲の姿、望むはずがない。ただ、自分でもどうにもならなくなったんだよな?
 俺とお前はよく似ている。お互いカタチが無くて、美咲と関わるうちに、同じカタチを持った。願っていることも同じ。――だから、オレはお前も放っておかない。

「峻厳(しゅんげん)と慈悲(じひ)が揃う意味、アンタならわかるだろう?」

 ミヤビも来たのか。二人がいるなら、長にはいい刺激になってくれるだろう。感情の起伏が激しくなれば、それだけ隙が生まれてくれる。

「アンタは利用されてんの。――大事なモノ、壊されちゃうよ?」

 核心をついた言葉に、長は暴れ出す。
 逃げるのに必死な二人(特にミヤビ)には悪いが、これであいつに入れる。

『アス、タ――…』

 苦しい声。悲痛に繰り返す言葉に、オレの中で決心が固まる。
 黒煙が蓮華さんの手にまとわりつき、短剣を引き離す。それを奪おうと近付く長に、オレも向かって行く。

『? オ、マエ――…』

〝もう少しの我慢だ〟

『ッ! ヤハリ、コノカラダ……』

〝お前の願いは、オレが叶える〟

 長の半身であるそれは、俺の存在を理解した。



『ハヤク……アスタ、ルテ』



 そう焦るな。
 オレは流れそのもの。



「さぁ――逝こうか」



 敵うモノなど、存在しない。