「舐められたものだな」



 平然と、蓮華は立っていた。

「このような体にしたのはお前だろう? それとも、〝我々の〟力が働くことを想定していなかったか?」

「「ッ、■■、■……」」

 言葉にならない呻きを上げるそれは、先程よりも赤色が全体に広がっていき、人型をよりはっきりと浮かび上がらせた。それが睨みつける先には二つの姿。一つは蓮華だが、もう一つは男性。

「峻厳(しゅんげん)と慈悲(じひ)が揃う意味、アンタならわかるだろう?」

 現れたのは雅。口調はいつもどおり明るいが、瞳は強く輝いていた。

「美咲ちゃんは、ここを変えようだなんて思ってない」

 じろっ、と人型は雅に視線を向ける。

「アンタ、彼女のなにを見てきたの? 望んでないって気付かない?」

「!? ノゾン、デ――ナイ?」

「そーだよ。ってか、まだ状況がわかんないわけ? アンタは利用されてんの。――大事なモノ、壊されちゃうよ?」

「「■■! ■、■■!!」」

 咳を切ったように、人型は暴れ出す。
 蓮華の力で凍らせた壁が壊れるほどの威力。直接それを受けてしまえば、自分たちは生きていられないだろうと、二人は息をのんだ。

「けしかけるのには成功したけど、これじゃあ美咲ちゃんの体っ!?」

 ギリギリでかわす雅。話しをする余裕はあるが、この状況が続くのは辛そうだ。

「アイツに壊されたら、っと。――体がなきゃ意味がない。取り出せないの!?」

 避けながら考える蓮華。出したとしても、体を奪われる可能性が高い。むざむざ相手の思いどおりにさせるなら、このまま手出しができないままにしておいた方がいいと判断した。

「難しい。もし壊されても、その時は私を使えばいい」

「えぇ!? そんなの、うわっ! 美咲ちゃん許すはずないって!」

「だからもしもの話だ。ったく、叶夜はまだ来ないのか!」

 施した結界を睨む。内側からも防壁があるおかげか、人型の攻撃が当たろうと、それは微動だにしていなかった。

「これなら、あいつを入れるのではなかった」

「アイツ?」

「ある意味元凶だ。女の姿しか知らぬだろうが、前世で会っているやもしれぬぞ? 今は男の姿をした使い魔の主だ」

「――ウソ、あの子が!? だったらそーした方がいいですって!」

「今更どうしようもない」

 人型の攻撃速度が上がる。美咲に近付こうにも、人型はそれをよしとしない。何度か雅が斬りつけるも、相手の再生が速過ぎる。

「無理して近付くな! っ!?」

 気を取られた一瞬、短剣を持つ手に黒煙がまとわりつく。焼けつくような熱さ。難は逃れたものの、蓮華は思わず短剣を放してしまった。
 ニヤリ、人型は口元を大きくする。
 蓮華が手にするよりも先に、人型は短剣を奪う。



「さぁ――逝こうか」



 澄んだ音声。発したのは人型なのに――何故か、激しく悶えていた。



 ◇◆◇◆◇



 音が――聞こえる。



 意識しかなかったそこに、カタチが存在し始めた。



「美咲、美咲っ!」



 音が声になり、言葉に変わる。そこに向かうも、そこからどうしたらいいのかわからない。
 ――言葉が遠退く。目指す場所がわからなくなり、他にカタチがある場所はないかと探す。



「待つのは止めだ。美咲を殺す!」



 別の声がすると、雰囲気が変わった。徐々に色濃くなる周りに、ここから抜けられると核心した。
 確か、別の声が言っていた。今なら、意識だけで干渉できると。元のカタチに戻れた方がいいのだろうけど、もし戻れないとしても、自分の意志が妨げられることはない。