*****



「――――これで、あらかた一掃出来ましたか」



 紫の瞳を輝かせ、リヒトため息をつく。

「さて、これからどうしたものか」

 既に、森の奥へ進む道は閉ざされている。仮にこじ開けたとしても、入れるのはおそらく――。

「――――リヒト!」

 心配そうな表情で駆け寄ったのはシエロ。慌てて顔を伏せるものの、まだ色を戻すことが出来ない。彼女を傷付けまいと、リヒトはそのままの状態でいることにした。

「本当に……アナタはまた無茶をして」

「それはこっちのセリフです! そんなに力を酷使して……あの子を一人にするつもり!?」

「そんなつもりはありません。それに、アナタがいないと彼女も――私も悲しみます」

 ようやく色が戻り、シエロの顔を見る。

「私が傷付けば、アナタは嫌がるでしょう? それと同じ――私も、アナタには無事でいてほしいんです」

「でも……この先にあるのは」

「何が見えたかは知りません。しかし、未来は絶対ではない。不幸な結末も、幸せな結末も。どんな未来を迎えるかは、その時の者が望んだ方向に向かうはずです。その未来が嫌なら、考えなければいい。そんな未来よりも、私を信じてほしい……」

「――前向きになったものだな」

 昔とは大違いだ、と蓮華が二人の前に現れた。

「? レン――あなた」

「構うことはない」

 口調はいつもと同じ。だが、気配はまるで違う。人形染みた雰囲気に、シエロは出会った当初を思い出していた。

「シエロはリヒトといろ。今回ばかりは言うことを聞いておけ」

「レ、レン。私の味方なんじゃあ……」

「不満は受け付けぬ。ほら、手を貸せ」

 懐から数珠を取り出し、シエロの腕に付ける。以前渡した物とは作りが違い、それには長い年月をかけ力が込められていた。

「外すなよ。あと、それは私が持って行く」

 シエロが懐に持っていた短剣を奪う。これは自分が運ぶと、シエロがこれ以上動くことを断った。

「……何も、レンがすることないのに」

「まだ私が行く方がいい」

「うぅ……そうはっきり言わないでよ」

「釘を刺さねば、また一人で消えるではないか。――リヒト、しっかり見張れよ」

「もちろん。あとは全て、私が請け負います」

「そうしてくれ」

 ではな、と片手を軽く振りながら、蓮華は森の奥へ消えて行った。

 *****

「っ……ぐ、ぅぁ」

「もうすぐリヒトさんのとこ着くからっ」

 突然倒れたエメ。傷を負ったわけでもないのに、彼女の体は衰弱していた。もはや、自分で歩くことも出来ないほどに。

「エ、ル……と、まって」

 何度も繰り返すエメに、雅はようやく足を止めた。木の根元に座らせると、エメは酷く顔を歪めながら言う。

「そろ、そろ……保てない。消える前にお願いっ。――力を、貰って」

「だって! そんなの確実にっ」

「わかってる……でも、これは元々エルのモノよ?」

「…………」

「それ、に。――消えたくないもの」

 寿命をまっとうした者は姿形が残る。だが、殺されたり呪いの進行が早まった者は、跡形も無く消えてしまう。
 このまま行けば、エメは確実に後者となる。仮にならなかったとしても、雅が力を貰うことでその危険が上がるかもしれない。