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「叶夜くん、〝天井〟ぶち抜いて」

 追いついたそうそうの一言がこれだ。
 天井をぶち抜く?
 思わず上を見る。快晴が広がる空。ここが塔の中だと理解しているが、本当に壊せるものかと疑ってしまうほど、ここは本物染みている。

「いくら再生しようと、ここは塔の中、偽物だ。多少歪んでるところもあるけど、ここらなら大丈夫! 遠慮なくぶち抜いて」

 頷き、鎌を取り出す。
 力の気配を感じるが、ここの空間を維持する為のものか。それともこの階層を護る為のものか。――どちらにしろ、力だけでなく、物理的にも攻撃をしておいた方がいいだろう。

「――――私もやる」

 その方が万全だろう? と、使い魔は言う。

「あまりこういうのに力は削げないんじゃないのか?」

 確実に美咲を見つけてもらわないと困る。心配すれば、使い魔は不吉なことを口にした。

「肉体の気配は在るのに、中身を感じない」

 使い魔が契約したのは、美咲という存在よりも前。だから記憶が消えようと、最初の存在と契約を交わしているのだから、時間がかかろうと見失うことは絶対ない。なのに今、使い魔はそれを感じ取れないと言う。

「だったらお前も、思いきり力を使えよ」

「言われなくとも」

 使い魔の姿が変わる。暴れていた時の大きさはないが、それでも数十メートルはある。
 体に炎をまとう使い魔。
 俺は自分が堪えられる限界まで力を込め、最大になるのを待った。
 一階ごとに上がっている場合じゃない。最初からこうしておけばよかったんだ。元より、俺は壊すの専門じゃないか。



〝どんなモノでも壊せる〟



 それは、一番古い記憶。
 壊すことしか知らない俺は、それ故に、彼女と出会えた。
 使い魔が吠える。それに合わせ、空に向かって力を放った。

 *****

 破壊音がする。それに、ディオスは喜びを感じた。加速する感情。ここまでうまく出来たのだから、もう少し落ち着いていこうと、自分の心を抑制する。



「さぁ――――至ろう」



 月が頭上で輝く。
 時間も時期も。
 素材も魂も。
 全てが順調。



〝どんなモノでも創れる〟



 それは、一番古い記憶。
 新しいカタチを創るには、古いカタチを壊さなくては。
 神が何度もそうしてきたように。それを、ディオスは再現する。

 ◇◆◇◆◇

 目を開けると、血の海が広がっていた。
 視線を手元に落とせば、握る短剣に血が付いている。

「それでいい! ようやく……お前は解放された!!」

 歓喜に満ちた声が木霊する。
 横たわる見知らぬ少年。その者は、何故か自分にすがってくる。

「わる、い……の、、。オレ、のっ方……だから」

 刺したのは自分。どう見ても悪いのはこちら。少年は被害者で、自分は加害者。なのに少年は、それを否定する言葉を言い続ける。
 しゃべるたび、口や傷口から血が溢れ出る。



「さぁ――至ろう」



 短剣を取り上げると、その者は自分を立たせるなり、腹部に突き立てた。
 ――痛みはない。感情らしい感情もわくことはなく。目の前の出来事を傍観していた。