「あまり……その時の記憶は無い。ただ、冷たくなる意識の中、主が自分に謝罪をしたのは覚えてる。『巻きこんでしまってごめんなさい』と、泣いていた姿を」

「そんなの変じゃん。彼女が君を殺したわけでもないのに巻き込んだとか」

「主の知り合いに、自分が殺された原因があったらしい。とは言っても、その方も実際何かをしたというわけではなく――ただ、恐怖の対象だったらしい。
 自分だけは清らかでいたい。悪いことをしたのは自分じゃない。こんなことをさせるのは悪魔の仕業。そう言い、自らの罪を認めないことが、私には本当の悪魔に思えるがな」

「全部の罪を押し付けて、自分たちはこれで綺麗になりましょう、ってことか。だったら君の力にも納得。そりゃブチギレて当然だ!」

「……笑い事じゃない」

「あははっ、悪い悪い。まぁ理由はどうであれ、それで彼女に出会ったわけか。その知り合いってやつのこと――何か知らない?」

「さぁ、聞いたことがない」

「自分で調べたりしてないの? それが原因だって彼女から言われたのに」

 しつこく追求する少年。使い魔も考えてはみたが、思い当たる節が無いらしい。

「貴方の方が、こういった類は専門だろう?」

「言うほど詳しくないって。君の主のことだって、どーしたらいいかさっぱりだし」

 歩きだすエフに、使い魔は隣に並びながら歩いていれば、



「この塔――君にはどう見える?」



 不意に、そんな質問をされた。
 しばらく考え使い魔が出したのは、



「――――地獄」



 と、そんな答えだった。

「ははっ、地獄ときたか。ま、あながち間違いじゃないだろうけどさ。
 最初は、純粋に神のそばへ行きたい為。でも神は、人間が攻めて来ると勘違いした。もちろんそんなのは、話し合ってすぐに解決しただろうけど、中には本気で考える者がいた。
 人間が創った中でも最大の建造物――欲にまみれ、偽善で固められた閉鎖的な空間。その中身は、階層ごとに違う世界を作り出している」

 言われても、使い魔にはぴんとこなかった。なんとなく話しには知っている程度で、それがどんな物だったか、想像するには難しい。



「その塔は――どうなった?」



 その質問にエフは、ん~? と、はぐらかすような返事をする。

「なんだ、貴方も知らないのか」

「知らないって言うか、【まだ】答えが出てないから」

「まだも何も、それは昔の話じゃ……」

「あぁ、昔だよ。でも――ここの話でもある。だから先がどーなるかなんて、世界の意志にしかわからない」

 エフの顔を見れば、今まで使い魔が見たことがないほど、真剣な表情をしていた。

「……貴方でも、そんな顔になるんだな」

 思わず、そんな言葉かけてしまうほど。並々ならぬ雰囲気を、エフから感じた。

「私だって真面目な時はあるんだよ? あまり関わらないつもりだったのに……本当、君の言ったとおり、私はお人好しだ。おまけに、ここが何なのか気付けもしなかった。こんなにも穏やかなのに……地獄だってことが、今更わかったよ」

 何を思い出しているのか。エフは苦々しい顔をしていた。それは、使い魔でも初めて見る顔で。この場所で起こったことを、後悔するような姿だった。