辿り着いた先にあったもの。それは、空に届くほど高くそびえる塔。神々しい雰囲気だが、少し離れると、辺りには黒い霧のようなものが蠢いている……。
 今のところ体に異常は無いが、アレには触れない方がいいだろう。

「妙な空間だねぇ~」

 帰れるといいけど、とエフは苦笑いを浮かべる。

「門を護る者もいない、か」

 それだけ自信があるのか。それとも――。

「何にせよ、楽して入れるならいいじゃん。こっちが油断しなきゃいいんだし」

 気を引き締め、塔の中へ足を踏み入れれば――。



「っ――なん、で」



 鉄格子を揺らす音。
 言葉にならない叫び。
 今見える全ては、ここに在るはずの無い――俺が産まれた場所と、同じ空間が広がっていた。

「いきなり実験場だなんて、歪な造りしてるね」

 間違いなくあの場所だ。でも……どうしてこの場所に。



「――――ねじれてる」



 ぽつり、使い魔が呟く。

「空間だけじゃない。おそらく、ここに流れる時間も違う」

「君たちが挑む相手ってのは、かなり手強いやつだね」

「歪んでいるなら、美咲の居場所はどうなる?」

「問題無いが……あまりいいとは言えない」

 時々気配を見失うらしく、その度に多く力を使うらしい。だからあまり戦闘では期待するなと、念を押された。

「んじゃとりあえず、上に行こうか」

 ここには、敵らしい敵はいない。
 音はすれど、誰かがいるような様子は無かった。
 階段を上がりおえると、一つのドアが見えた。ノブに手をかけ、ゆっくり回し開ければ――目の前に、十字に建てられた物が見えた。
 夕暮れの草原。
 大小様々な十字の木。
 見るからに、ここは埋葬場所だろう。先程の部屋同様、誰の気配も感じない……。
 本当、この空間はなんなんだ。
 風や音も本物としか思えない。だというのに、誰もいないなんてこと――。

「ちょっ、何してんの!?」

 突然、使い魔は一心不乱に地面を掘り始めた。少年が止めるのも聞かず、あっと言う間に人ひとり分の土を掘り返したと思えば、

「っ!?――――あ、るじ」

 小さく、そんな言葉が耳に入った。
 まさか……これが美咲?
 出てきたのは、体を折り曲げたままの遺体。顔は潰れ、所々肉を剥ぎ取られている。

「おい……まさか本当にっ」

「【今の】ではないが……主だ」

「? どういうことだ」

「この主は……四度目の肉体だ」

「随分酷い状態だけど、君が殺したの?」

「……殺された。何かの儀式に使われたらしい」

「ってことは――ここは君の記憶か」

 その言葉に、俺と使い魔は首を傾げた。

「さっきの場所は叶夜くんでしょ? おそらく、この塔は上る者にとって辛い記憶――嫌な記憶を再生してるんじゃないかな?」

「そんなことをして、意味があるのか?」

「そいつが何をしたいかなんてわからないけど、普通はそーいったのを見せられれば贖罪の念にかられるし、上りきる前に自殺、なんてこともあるんじゃない? ま、人の闇を再生するならすればいいさ。次は私のかな? 楽しみだねぇ~」

 微笑みながら、エフは土を被せ始めた。

「ほら、綺麗に埋め直す」

 言われて、俺たちは最初に見た時よりも丁寧に土を戻した。

「よし、次に行こうか」

 草原の真ん中。そこに、不自然なドアが一つ。
 この先には、どんな光景があるのか――。
 順番どおりにいくなら、次はエフの。

「自分で開ける」

 ノブに伸ばした手を遮り、エフが言う。
 そしてにこやかな笑顔のまま、ゆっくりドアを開いた。