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 リヒトさんに連絡を入れるも、電話に全く出ない。急いで自宅に向かったが、部屋からも気配を感じられなかった。

「――動き回ってる」

 鼻が利くのか、使い魔は辺りを見回す。

「命華――シエロとか言う者の気配も無い。順番から言えば、命華ともう一人。それが先に姿を消している。その後に雑華と、リヒトと言う者が続いている。――誰を追う?」

 おそらく、シエロさんといるのはエメさんだ。二人が動き出したとなれば、過去にやったことと同じ――特に、シエロさんはまた自分ごと。

「確実に、美咲の居場所はわかるのか?」

「ここからでは分からない。だが、向こうに行けば必ず見つける」

 なら、まずはリヒトさんだ。あの人の知識が無ければ、わらないことがある。過去にはシエロさんが自分ごと封じて収拾がついたが、今回もそれが通じるのか……。



「――探さなくてよさそうだ」



 遠くを見つめる使い魔。同じ方向を見れば、急いでこちらに向かう影が見えた。

「シエロは何処に!?」

 詰め寄るリヒトさんに、いつもの冷静さは無い。敵でもないのに瞳を変え、目が合った途端、話すことが出来なくなってしまった。

「答えなさいキョーヤ!」

「まーま、落ち着いて。その瞳のまんまじゃ、彼ら身動きとれませんよ?」

 視線を動かせば、そばにいた使い魔も、俺と同じく固まっていた。

「探せますからご安心を。私の使い魔なら、それが出来ます」

「っ!? 本当、ですか?」

 告げれば、リヒトさんの瞳が元に戻り始めた。まだ完全に落ち着いたわけじゃないが、とりあえず、話は聞いてくれそうだ。

「本当ですって。もちろん、日向さんの居場所も」

 ようやく色が治まると、リヒトさんはいつもの雰囲気に戻った。

「あのう……もしかして、エメさんも?」

「えぇ、そうです。……全く、私も信用がありませんね。これでは、前と何一つ変わらない」

 悔しそうに顔を歪めるリヒトさんに、少年は相変わらずの様子で接する。

「終わるの早過ぎますって。――ほら、行きますよ」

 多くの蝶が舞う。繋げる場所はもちろん――俺たちの世界だ。

 *****



「――なんだ、考えることは同じか」



 命華の石碑に向かうと、蓮華はそこで、見慣れた姿を見つけた。

「リヒトに黙って抜け出したのか?」

「そういうレンだって。木葉さん、心配するわよ?」

「私のことなどよい。お前がいなければ、リヒトはまた泣くぞ」

「また? いつ泣いてたの?」

「お前が箱に消えた後だ。おまけに死のうなどと……あのまま情けなく泣いておれば、私が殺していた」

「相変わらず物騒ね。――本当、レンには感謝してもしきれない。彼のことだけでなく、美咲のことまで」

「お前たちは、私を私として扱った。だから私もそうする。――まぁ、少しシエロの方に肩入れはしているがな」

「ふふっ、レンが友だちでよかったわ」

「友達、か。そう呼べるのは、お前とリヒトだけだ」

「ちょっと、レフィナドを忘れてるわよ?」

「……あれの名前を出すな」

「そうやって嫌悪するってことは、まだ興味があるってことなのよ?」

「元々興味などない」

「もう、強情なのも相変わらずね。原因がなんなのか――もう、気付いてるんでしょ?」

 しばらく空を眺めると、シエロは背を向ける。



「そろそろ行くわ。少しは母親らしことしなくちゃ」



「なら――私も真似事をするか」



 初めて抱いた思いを胸に、二人はそれぞれの行動をとった。

 ◇◆◇◆◇

 漆黒が空を覆う。
 もう、ここ以外に光なんてない。そう思えるほど深い闇が、この世界を蝕んでいた。



「――いい景色だな」



 ニヤリ、口元を緩める彼。
 顎を上に向けられると、口に何かを押し込まれた。思わず飲み込めば、彼は嬉しそうに、何度も頬に口付けをしてくる。
 早く……止めない、とっ。
 動かない体に力を入れ、早くあの子が気付いてくれるよう力を使った。――だが突然首を鷲掴まれ、途端、私は力を使うことができなくなってしまった。

「心配せずとも、やつらはもうじき来る。――力ヲ使ウナ」

 彼らしからぬ声。いくら姿が違うからといっても、この声はまるで……。



「もっと近く……全てを、共に」



 子守唄のように、ゆったりとした音声が全身に浸透する――。
 自分を私だと、前よりも強い自己を認識できたのに――どうやら、今のままでは目的を果たせそうにない。



 私は――ここで終わりだ。