「自己的な考えで突っ走った結果がこれだ。生きてほしいと願っても変えられない……この世界に生きる者には、それぞれ役割がある。どうにもならないことが、この世には存在するんだよ!」

「へぇ~、お前もそんな口利くようになったか」

 明るい口調で話しに入る倉本さん。青年を見ながら、同族嫌悪? と笑っていた。

「初めて会った時のお前ソックリだからなぁ~。イラつくのも分かるけど、穏便にいかないと」

「事実を述べただけだ。――実際、この世には変えられない法則がある。そんなこと、貴方たちが一番理解しているだろうに」

「ははっ、否定しないよ? でも、そーいった法則を無視出来るやつが現れるのもまた事実――だから、この世は面白い」

 手を引かれたと思えば、倉本さんはオレを立たせ話を続ける。

「君にはね、彼女に与えられた力と、生まれ持った王華と華鬼の力がある。違う種族が混ざったやつは、法則なんてものを壊せる可能性が高まる。
 ――ま、ようはこの子がしたかったことを君が出来るから、焼いてるってわけ」

「っ! 誰が焼いてなど」

「隠すな隠すな。他人に感情むき出しにするなんて、初めて見たし」

 葵さんからも聞いたが、どうしてこいつまで、俺に何かが出来ると言うんだ。
 こいつにも先見が――いや、そうなら面倒になる前に手を打つか。

「――何故、俺に出来ると思うんだ?」

「ん~一種の勘、ってやつ?」

 その答えに、俺だけでなく二人も呆れた様子を見せた。

「本当、貴方は相変わらずだ」

「話しはよそでして。これ以上は私も協力出来ない」

「そんな冷たく言わないでよ。緋乃のケチ~」

「すり寄ってくるな! 今は男だろうが!」

 頭を平手打ちされた倉本さんは、ぶつくさ言いながらも帰る準備を始めた。
 淡い光の蝶が舞い、いよいよ戻るとなった時、

「協力ありがとう!」

 女性に一言、礼を述べた。

「お礼ならエフに言って。アレが一番無理してるから」

 女に見送られながら、俺たちは元の場所に帰った。

 ◇◆◇◆◇

 視線を上に向ければ、この場所以外の空が、黒い雲に覆われている。
 空気もよくない……彼は、この世界そのものを壊したいの?
 彼に巣食っているモノは、何を望んでいるのか……。
 呪いにより、訳もわからず殺され続ける生。でも、死の淵になると、自分が何故殺されるか思い出してしまう。
 もしかしたら、それも呪いの効果なのかもしれない。そうすれば、苦しむのは私だけでなく、親しい者にも影響が出る。――そうなることが、私にとって一番耐えがたい仕打ちだ。



「いつまで――自分を犠牲にする」



 彼が、私に問いかける。



「それが――私、だから」



 そうするのは、私が私である存在理由。本来の原点が、そういったものだからだと思う。

「本当の意味で戻ってはいない、か。――まだ、何処かに気持ちがあるのだな」

「気持ち――?」

「残っているなら、それもまたよい。我は、器を変えるだけだ」

「――――誰、を?」

「お前もよく知っている。破壊に長けた、質のいい器だ」

 思い出そうにも、あるのはあやふやな記憶。
 感覚としてはこう、思うところがあるのに……何も浮かんでこない。

「そのまま、我だけに染まれ」

 私の頬に触れ、怪しく口元を緩める彼。姿は違うのに、こうやって触れる感覚は、当時と変わっていない。
 堕ちているのに、時々垣間見る彼の存在。もしかしたらという思いが、私の胸を締め付けていく。



「至高の花が――もうすぐ」



 呟くと、彼は狂ったように笑い始めた。お腹を抱えひとしきり笑うと、今度は急に静かになった。



「――、――…」



 空を見上げ、ぽつり、なにかを呟く。
 その時、どんな表情をしていたのか。
 背中から感じたのは、とても弱い、悲しい雰囲気だった。