「あの時……主を殺せていれば」

「っ!……本当に、それがいいと思っているのか?」

「当たり前だ。それが主の望みなら、叶えるだけだ」

「本当に……美咲を殺したいと思うのか?」

 以前にも聞いたことだとは分かってる。だが本当に、それを好(よ)しとして行っているのか――こいつの本心が知りたい。
「本当に、心から殺したいと思うのか?」

「自分は使い魔だ。それが主の望みなら、どんなことだってする」

「っ……生きてほしいと、思わないのか?」

「何度も言わせるな。主は必ず殺される……それも残忍な方法でだ。綺麗なまま逝かせるしか、出来ることなどない!」

 立ち上がると、青年は俺の胸倉に掴みかかって来た。



「何も……知らないくせにっ」



 以前よりも敵意をむき出し、青年は強い口調で迫る。

「主は優しい……だから呪いも、〝代わりに〟受けたんだ!」

 疑問で頭が埋まるオレに、青年は尚も続ける。

「分からない、って顔だな? 主は――〝お前の代わりに呪われた〟!」

 理解が出来ない。
 王華の以外の呪いなど……?



「――、―――――!?」



 音が聞こえない。
 青年の顔も見えなくなり、徐々に、別の光景が広がり始める。



『これで……いい、の』



 虫の息の女を抱え、悲しんでいる光景。

『だいっ、じょ……。また……あえ、るっ』

 これは以前も見たあれか?
 ――だが、何処か違和感が。

『っ……次、は。――――間違えない。次こそは必ず』

 護ってみせると声を張り上げる場面も同じ。何に違和感を覚えるのかと思えば、



「聞いてるのか!? お前のせいで、余計な呪いを背負ったと言ってるんだ!」



 音がクリアに聞こえた途端――全て理解出来た。



 死んでいたのは彼女じゃない。



『ごめんっ、なさ……私のっ、せい』



 あの時死んでいたのは……。



「…………俺の、ほう」



 膝から崩れ、自分の過ちに頭を抱えた。
 あの時……彼女の解放を願い、やつに戦いを仕掛けた。だがそれは、やつにとって好都合でしかなかった。……力の差は歴然。呪いをかけられ、絶死の状態にされただけでなく、彼女を追い詰める駒に使われたんだ。



「思い出したようだな。――どうだ、罪を認識した気分は?」



 ……いいわけがない。
 胃の中をひっくり返されたような、嫌な脱力感。
 あの時の言葉。『次こそは必ず』と叫んだのは、次の世では必ず護ってみせるという誓いだったのに……また、彼女に助けられた。自分がどんなに愚かなのかと、これでもかと自覚させられた。