「理性を無くし、本当の獣になっては、願いなど叶えられまい?」

 少女らしからぬ低い声。
 疑問に思う俺に気付いたのか、女性は、変化が始まったと告げた。

「エフは、時期が来ると力や性別が変わる。あれを使い魔にした時は男の時だから、抑えるには男になる必要がある。でも、今はまだ時期的に男へ変わる時じゃない。
 ――お前たちが何をするか知らないが、しくじれば、後はないと思った方がいい。余計な力を使うんだ、これ以上の手助けは望めない」

 倉本さんの周りが歪む。溢れ出る力のせいなのか、何かしらの変化が起きているのは見てわかる。



「アグッ、ガッ! グルルルルゥ……」



「お前の望みは、主を探し、他の者に奪われる前に殺すこと――だろう? 早くしないと、最っ高の状態で奪われるだろうなぁ~」



「……ウ、バッ。ッグ……」



「それが嫌なら思い出せ。
 ――何故、お前は契約した?
 ――何故、お前は生き続ける?」



「アル、……ジの。ね、がいっ」



 使い魔の声が、人語へ変わっていく。
 姿も小さくなり青年の姿へ戻った途端、

「――――がうっ!?」

 青年は蹴り飛ばされ、思いきり踏みつけられた。

「お前っ、何してる!?」

 駆け寄り腕を掴めば――その腕は、少女というには逞(たくま)しくて。

「これは最後の気付けみたいなもんだ。――また暴れたら困るだろう?」

 振り向いたのは、見知らぬ少年だった。

「初めまして。緋乃(ひの)に聞いたんだろう? これからは男としていくからよろしく」

「よ、よろしく……」

 間の抜けた返事をする俺に、少年姿の倉本さんは握手を求めてきた。
 見た目は変わったが、雰囲気や話し方がやはり同じだ。



「――――全く」



 静かな音。その主は青年で、苦笑いをしながら倉本さんを見ていた。

「随分っ、手荒いことで……」

「これぐらい平気だろう?」

「普段ならそうでしょうが、こっちは重症なんですから」

「――――エフ」

 間に入る女性。外に敵が来ているらしく、早く立ち去るようにと忠告された。

「もうそこまで来てるんだろう? だったら肩慣らしに出よう」

 緋乃も行くぞぉ~と女の手を引き、二人は外へ向かった。
 今のうちに回復しようと、葵さんから貰った飴を食べる。口に含んだ瞬間、花の香りがし、体がすぅーっと軽くなる感覚がした。



「――――主は」



 俺の左腕を掴みながら、青年が問う。

「今……どうなってる?」

「…………わからない」

 自分が見たことを、青年に全て話した。生きていることに安堵したものの、原点を再現されたという話に、酷く辛そうな表情を見せた。