「お前の願いは何だ。無いのか?」

「珍しいですね。私の願いを訊ねるなど」

「ただの気紛れだ」

「ほう、これまた珍しい」

「……無いならそう言え」

「いえいえ、もちろんありますよ。私の願いは――蓮華様が元気で過ごされること。これしかありません」

「……それだけか?」

 いつになく弱い声。疑問に思ったのも束の間。襖の向こうから、木葉を呼ぶ声が聞こえた。

「やはり、お前が治療するのがよいのだろう。抜け出さぬから、早く事を済ませ戻って来い」

「……では、お言葉に甘えて」

 軽く頭を下げると、木葉は部屋から出て行った。

「全く。――こんな近くに居たとはな」

 木葉が立ち去った後を見て、蓮華は物思いにふけっていた。
 レフィナドに触れた今だからわかる。彼もまた、魂を分けていたのだということを。
 どれほど木葉がレフィナドの記憶を所持しているかわからないが、後から聞いてみるのもいいかもしれないと、蓮華はケガの回復に力を回していった。

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 倉本さんと合流するなり、俺は使い魔の居場所を聞いた。彼がいなければ美咲を見付けられないと言えば、倉本さんは罰が悪そうな表情を浮かべた。

「連れてくるのはいいけど……時間、かかるかも」

「一秒でも惜しい……すぐに使い魔を呼んでくれ!」

「いや、今は私が呼んでも来れないのよ。――あの子、実験台になってるから」

「実験って……後回しに出来ないのか?」

「出来るけど、本部が納得するかどうか……」

「頼む……オレも手を貸すから、どうにかして連れ出してくれ」

「――――あぁーもう! こうなりゃ腹をくくるか」

 何を決意したのかわからないが、倉本さんは再び小瓶を開け、周りに蝶を舞わせ始めた。

「言っとくけど、これからやるのって拉致同然だから」

「お前の使い魔だろう?」

「そうだけど、今は向こうのおもちゃってことになってるの。――とにかく! 着いたら全力で暴れて。死なない程度になんて思ってたら、こっちがやられちゃうわ」

 鍵をさし、深呼吸をする。



「――――行くわよ」



 光をくぐる。――すると、出たのは何処かの施設内。薬品やその場の雰囲気に、思わず、自分が生まれた場所と重なった。



「ぼさっとしないで行く!」



 背中を叩かれ、我に帰った。
 倉本さんを先頭に走っていると、前から歩いて来る人物が。目が合うなり、そいつは俺たちに刃を向けた。
 すぐさま倉本さんが剣を取り出し、相手の腹に豪快な蹴りを入れる。口から血が出たところを見ると、かなりの衝撃だったんだろう。早く進もうと言えば、倉本さんは念の為と、そいつの袖をはいだ。

「慌てないの。回復されたら厄介でしょ?」

 魔力を垂れ流しにするのよ、と手慣れた様子で進めていく。
 もしかしたら、こうして押し入るのは初めてではないんじゃないかと思えてしまう。

「――お、実験はいつものとこか」

 ついでに記憶も読み取ったらしく、場所が判明したようだ。

「結界が面倒ねぇ~。――叶夜くん、解除するのって得意?」

「悪い。壊すの専門だ」

「じゃあ私がするわ。そうねぇ~ちょうどこの辺り。思いっきりぶち抜いてちょうだい!」

 バンッ、と壁を叩き場所を示す。
 神経を集中させる。鎌を取り出し、刃に力をまとわせ――壁に叩き付けた。
 ドーン!! と豪快に割れたと同時。けたたましく警戒音が響き渡った。
 警備の人間が襲いかかって来る。だが、幾ら数がいようと、俺たちを止める程の使い手はいない。