「お前たちが従うのは……王華じゃない。契約は、古き我血にある!」

 声を張り上げる様に、影の進行が止まる。しかし、中には幾つかだが、変わらず歩みを進めている影もいた。

「知性があるなら従え。我はスウェーテの血筋――」

 おもむろに、左腕の服を破る。露になったのは、肩まで黒く変色した腕。

「影にも、触れることが出来る存在。故に――」

 腕を振り上げたと思えば、大地に大きな爪痕が。
 今まで感染が進行した雑華を見て来たが……ここまで力がある者を見たのは初めてだった。



「私は、貴方たちを殺せる」



 告げれば、歩みを進める影はいなくなった。
 すると――影の後方。そこで、何かが飛ぶような、大きな音が聞こえ始めた。



 ギぃヤぁぁーーーア!



 劈くような声。耳を塞いでも聞こえるそれは、箱に剣を衝き立てた時を思わせた。何処かに箱があるのかと見回すも、それらしい物は見当たらない――…。



「――戻るわよ!」



 そんな中、影をかき分けこちらに走る者がいた。身構えれば相手は女性で、

「な、何故アナタが」

「説明は後! 早く小瓶を割って!!」

 血相を変えた、シエロさんだった。
 懐から小瓶を取り出すなり、リヒトさんは急いで地面に叩きつけた。
 広がる鮮血と花びら。俺たちを包みこんだと思えば――あっと言う間に、別の場所へ移動していた。



「――――早かったな」



 戻った先にいたのは、胸に傷を負い、大木にもたれかかっている蓮華さん。怪我をしたのは少し前らしいが――。

「傷、塞がっているんですか?」

 治りが遅いんじゃないかと、そんな予感がした。

「ほう、見ただけで分るか」

「いいえ。ただ、そんな気がして」

「能力は華鬼より、か。――確かに、いつもよりは遅い。だが、ゆっくりとだが塞がり始めておる。問題は――?」

「レン、やっぱり体が……」

「違う」

 射るような眼差しが、オレに向けられる。思わず後退してしまうほど、蓮華さんの眼差しは鋭かった。

「叶夜――お前、アレに入ったな?」

「本当なの!? どこか、痛くない?」

 酷く心配するシエロさん。大丈夫だと伝えたものの、信じられないというふうな目で見られてしまう。

「自分でも、よくわからないんですが――」

「お前は、あの中で何を見た」

 まるで、蓮華さんには分かっているかのような口ぶり。
 だがこれは――おそらく、俺だけに見えたものだと思う。

「フロルと過ごした――記憶です」

 中で体験したことを、ゆっくり話していった。