これ以上……間違いを放置してないけない。



 立ち上がると、数回深呼吸をした。
 近くに箱の気配がする。体はもう無いものの、ここの土壌と残留する力を得れば、厄介になることは確実。そうなる前に――。
 気配の方を向き、真っすぐ見据える。
 箱が辿り着く前に、自分の方から迎えに行こう。
 力強く、大地を蹴り走る。箱とは違う気配。それが叶夜だと直感し、急いでその大元へと向かう。



「――リヒトさん、アレッ!」



 大きな声。おそらく、雅が自分を見つけたんだろう。自分に向かって来る気配がする。



「引き返しなさい!!」



 先程よりも大きな叫び声。どうやら、先生も近くにいるらしい。
 どんなに叫ばれても、止まることはしない。自分はこれから――護る為に逝くのだから。
 首飾りを外し、足に、より一層の力を込める。
 黒い液体に足を踏み入れれば、小さく、女性の声が聞こえた。



「ワタシ、の――…」



 ゆっくり、体の周りを覆われ始める。



 もう……繋がなくていい。



 中に居るであろう彼に言えば、すとん、と胸の中心から抜けていく感覚がした。



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 ――風が吹き抜ける。



 体に力が入らず、地面に着いた途端、俺は膝から崩れた。
 黒い液体はその痕跡を残さず、跡形も無く消えている。



「なん、で……」



 自分は今まで、黒い液体の中にいたはずじゃ――?
 目の前に、光る物が見えた。手に取れば、それは透明な球体の飾り。中には、青い花が浮かんでいる。



「――急ぎ離れます!」



 焦るリヒトさんの声に、思わず疑問の声をもらす。

「まだ気付かないの?――もう、オレたち囲まれてんだよ」

 周りを見れば――木々の間から、影が見え隠れしている。だが、そこには影以外の者も見えた。

「オマケに、王華の重鎮たちまでいるし――アンタ、どーにかできないわけ?」

「あいつら、オレを心底嫌ってるからな。――話し合ってどうにかなるってことはないだろう」

「話し合う気は無いでしょう。これだけの影を連れるなど、戦争を起こす以外考えられませんから」

 じりじりと、影や重鎮たちは距離を詰めていく。どれだけの数がいるか分からないが、三人で何処まで保てるか……。



「――――従え」



 小さく、声が聞こえた。
 発したのはエメさんで、自力で立つなり、強い眼差しで前を見据える。