「ふっ。さすがに力はあるようだな?」

「お前に負かされるほど、力は弱くない」

「そうか。――では、最後にいいものを見せてやろう」

 すると、ディオスは真上へと飛び上がる。蓮華は後退し、何をするのかと見ていれば、



「――――蓮華」



 名を呼ぶディオス。その表情は、先程見た懐かしい表情。思わず動きが鈍くなる蓮華に、ディオスは続ける。



「お前を――愛している」



 告げたと同時、ディオスは勢いよく、何かを振り下ろした。
 困惑する蓮華には、今の言葉も、自分に何が起きているのかさえ、すぐに把握できなかった。理解した時には――既に遅く。胸の中心に、短剣が突き立てられていた。



「――これで、目的は消した」



 聞き覚えのある、嫌な音声。それを聞いた蓮華は、目の前にいる者が〝違う者〟だと確信した。



「お、まえ……はっ!」



 短剣を引き抜くと、ディオスは蓮華を蹴り飛ばした。
 苦悶の声をもらす蓮華。それを楽しげに見つめるディオスは、口元を怪しく歪めていた。そして何事も無かったかのように、ディオスはその場から立ち去った。



「お前、は……バカ、だ。どう、して……ひと、り」



 ディオスが行った方向を見つめ、蓮華は一人、涙を流した。
 何も……出来ていない。知らなかったのは自分なのだと、酷く痛感していた。

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 気付けば――そこは黒一色。
 何処までも闇が続くそこは、どうしようもないほど、絶望という念を押しつけられる場所。
 じわり、体に何かがまとわりつく。自分を見ても、光が無いから、今どんな状態なのかが分からない……。



〝――――ヴァン〟



 音がした。
 でも、それはオレが知らない言葉。



〝――――ヴァン〟



 もう一度、同じ言葉が聞こえる。何度も呼びかけるそれは、どうやら、俺のことを呼んでいるらしい。



「――――みさ、き」



 呟けば、胸が締め付けられた。それは内側からくるものではなく、外からくる刺激。



〝私を――――見て〟



 悲しい声。
 その主を知っていると、何故か頭に浮かぶ。



〝私を――――見て〟



 懇願する声。
 確かこの声は――。



「フロル……?」



 思い浮かんだ名前を口にすれば――覚えのない光景が、目の前を駆け抜けた。