『もし――彼を止められるなら』



 ゆっくり顔を上げ、視線を絡ませる。



『首飾りを――外して』



 真剣な眼差しで、そんなことを言われた。



『それでも力が足りないなら――』



 小さく、口を動かす。
 それは音にならず、頭に直接響いた。

 ――――――――――…
 ――――――…
 ―――…



「――――起きたか」



 安堵の声。
 頭を動かしてみれば、左側に蓮華さんの姿が見えた。

「――――やし、き?」

「そうだ。お前は洞窟から出た途端、気を失ったんだ」

「あれから――どれぐらい、経ちました?」

「半刻ほどだろう。もう、日が真上に来ている」

 六時間ほど、か。
 みんなは……どうしているだろう。
 うまくいくはずだと思うのに、不安が押し寄せる。

「力の使い方はわかるのか?」

「――――おそらく」

 まるで昔から知っていたかのように、頭に浮かんでくる。
 使うのは言葉。
 強力なものにするには自分の血。
 それでもダメなら――。

「ならば、今は私の役目は無さそうだな。――ゆっくり休め」

 部屋に一人残った自分は、さっきまで見ていた光景を思い出していた。
 彼女は言った。時間が無い、と。
 それが現実のものになったら、向こうにいるみんなは無事に帰って来れるだろうか。



「――――自分が行くしか」



 仮に自分が行かなくても、シエロさんがなにかしらの行動を取るというのは予想できる。でも、それじゃあダメだ。今回は――それでは治まらない。
 根拠の無い予測。でも、強い自信があった。
 本当の意味で止められるのは――。



『こっちに――――来て』



 この声に、応えるしかない。