「――そろそろ、移動しましょうか」



 ようやく二人から離れると、ここからは自分が案内すると、エメがかってでた。

「場所はディオスの屋敷ですが、普通に行ったのでは、影と鉢合わせます。ですから、道案内は私に」

「それはいいですが、戦闘になった場合は――」

「自分とミヤビが動けばいいのではないですか?」

「ダメよ。特にノヴァは、あっちに着くまでムダな戦闘は避けて。箱は貴方しか持てないんだから、何かあったら困るもの」

「じゃあさ、エメとリヒトさんが先頭で、後方がオレたち。戦闘する場合は、オレとリヒトさんが動く。どーしてもって時にキョーヤ、ってことでいいんじゃない?」

「いえ。今回は、出来るだけ私が引き受けましょう」

「そんなことしたら、リヒトさんに負担が――あっ」

 気が付いたのか、エメは納得した表情を浮かべた。

「そっか。影とはいえ、中にはまだ知恵がある者がいる。何より――始祖には、本能的に逆らえない」

「そういうことです。全てに当てはまるわけではありませんが、余計な戦闘を避けるにはいいかと」

「ではリヒトさん、お願いしますね」

 エメと上条が並んで先頭を走り、その後ろに叶夜、雅と続いて進んで行った。

 ◇◆◇◆◇

 ぐるぐると、景色が巡っている。
 自然に囲まれた景色。
 家々が建ち並ぶ景色。
 人々が群がる景色。
 どれも見覚えがる。それは自分ではなく、今まで模倣してきた存在の記憶。



 どうしてこんなもの――…。



 今必要なのは、日向美咲の模倣。それ以外の、ましてやもう死んでしまった存在を蘇らせる必要はないのに。
 余計なことは考えない。
 余計なことは考えない。
 いつも繰り返してきた言葉も、なぜか通用しない。



 ――目の前に、大きな鏡が見えた。



 そこに映っているのは自分。でもそこに映し出された自分は、自分とは違う動きを見せた。



『私に――体を渡さないで』



 鏡の自分は、そんなことを言った。
 今見えているのは――日向美咲?
 だとしたらおかしい。
 体を渡せではなく、【渡さないで】と言うなんて。
 疑問をぶつければ、相手はそれに答えた。



『あれは私だから、戻るのは容易い。でも――受け入れないで』



 自分なのに、受け入れてはいけない?
 意味がわからない。第一、自分は模倣の存在。そんな決定権は無いはずだが――。



『時間も無い。あと三日と持たず、彼の中の衝動が目覚めてしまう』



 鏡に触れ、顔を歪める自分。
 彼とは、誰のことを言っているのか。王華の長かと聞けば、違うと言い首を横に振った。



『彼は――長の中にいる。でも、過去に見た彼とは違う。今はもう、完全に堕ちてしまった』



 膝を付き、うな垂れる。
 そばに近寄るも、彼女に触れることはできない。鏡に隔たれ、ただ、声をかけることしかできなかった。