体が重い……。
 でも、これ以上ここにいる必要は無いと、頭の中はいやにすっきりしている。
 上半身を起こし、まずは這うようにして外を目指した。次に、途中にある岩に掴まり、それを支えに立ち歩いてみた。すると――徐々に、光が見えてくる。
 意識が、飛びそう……。
 力尽きる前に、せめて外には出ていないと。
 視界に、多くの光が入ってくる。
 外は目前。もう少し――もう少しで。



「――――美咲っ!」



 視界に広がるのは、真っ青に輝く空。
 聞こえるのは、自分を呼ぶ声。
 そして――意識が消える中、誰かに受け止められ力尽きた。

 *****

 上条の導きにより、叶夜と雅は自分の世界に来ていた。
 ここからは雅が先頭となり、二人を案内していく。



「――――エル~」



 進んでいる先から、誰かがこちらにやって来る。その姿を確認した途端、雅は二人を置いて、その者の所に急いだ。

「迎えなんてよかったのに」

「だって、リヒトさんが来るのよ? 我らが始祖を迎えないわけにはいかないじゃない。――――数日ぶりですね、リヒトさん」

「えぇ。顔色がいいようで安心しました」

「ちゃ~んと、貰った薬は飲みましたから。――ノヴァ」

 呼ばれ、叶夜は間の抜けた声をもらした。
 こうしてまともに彼女と会うのは百年ぶりだったか。昨日のことがあるだけに、エメにどんな態度をとればいいのかと、叶夜迷っていた。

「こ~ら。聞こえないの?」

 そばに行き、顔を覗き込む。
 視線が絡まると、エメは勢いよく、叶夜に抱き付いた。

「え、エメ……さん?」

「生きててよかった。ちゃんと心があるままで……よかった」

「……エメさんの、おかげです」

 幼い頃に、知識を与えてくれた。だから今の自分があるのだと、叶夜は感謝していた。

「貴方も無事で……よかった」

 背中に手を回した途端、

「そこは認めない!」

 がばっ! と、二人は雅に引き離された。

「エメもさ、なんでオレの前でイチャつくかなぁ~」

 エメを背後から抱きしめ、頭に顎を置きながら話す。余程気にくわなかったのか、顔が拗ねている。

「あ~ら。だってノヴァは私の子よ? 包容ぐらい当たり前でしょ?」

 ピーンと、その場の空気が凍る。
 エメにとっては悪気の無いこの言葉も、まだ叶夜と雅にとっては、埋められていない溝。触れてはいけない事柄だった。



「エメさん。二人は今まで、殺し合う関係だったので――」



 見兼ねた上条が声をかけると、エメは雅の手を取り、叶夜の手を握らせた。

「はい、これでもう終わり。二人は仲良し!――いいわね?」

「「…………」」

 頷かない二人に向け、エメは威圧感を与え、

「へ・ん・じ!」

 と、ぎゅ~っと二人の手の上から手を握った。思わず苦悶の声をもらす二人に、エメは尚も聞く。

「二人とも~。お返事は?」

「「は、はい!」」

「うん、よろしい。それでこそ、私の可愛い家族っ!」

 二人の首にしがみ付き、笑顔を見せるエメ。そんな姿に、二人の表情は和らいでいた。