「もし知っているのであれば――教えて下さい」

 頭を下げ、蓮華さんに懇願する。
 どう返しがくるだろうと思っていれば、まずは頭を上げろ、と声をかけられた。

「言っておくが、お前はまだ覚醒前。それを無理やり覚醒させるなど……」

「方法は、ないということですか?」

「無いこともないが……それには、痛みを伴うぞ?」

 蓮華さんは真剣な表情に変わり、そのまま言葉を続ける。

「まだ覚醒していない力を引き出すには、それなりの体力を必要とする。自分との戦いになるが……やってみるか?」

 即座に頷き、やり方を教えてほしいと頼んだ。

「私はお前の意思を尊重するが……リヒトが黙っていないだろうからなぁ」

 はぁ~……と、蓮華さんは重いため息をはく。

「先生の許可がないと、できないことなんですか?」

「いや、そういうわけではない。
 さっきも言ったが、私はお前の意思を尊重する。お前がいいというなら、すぐにでも始める」

「お願いします」

 蓮華さんに手を引かれ、部屋を出た。すると途中で、木葉さんと出くわした。

「木葉、私たちはこれから出かける。リヒトたちには、上手く言っておいてほしい」

「そう言われるということは……もしやあの場所へ?」

 頷けば、木葉さんは少し眉間にシワを寄せた。

「本人の意思だからな。私は、道を示すだけだ」

「……分かりました」

 お辞儀をし、木葉さんは自分たちをその場で見送った。
 人目を避けるように外へ出ると、蓮華さんは自分を抱え、素早くその場から離れた。
 あまりに早く、私は思わず蓮華さんにしがみついた。目なんて開けていられなくなり、目的地に着くまで、ずっと目を閉じていた。



「――――着いたぞ」



 目を開けると、そこは小さな洞窟。中からは水か流れ出ており、ひんやりとした空気が、辺りを包んでいた。

「目的の場所は、この奥にある。そこには小さな石があるから、それに手を触れてほしい。そこでは、赤の命華のお前が、目の前に現れる。自分自身と話をし、ここから出て来い」

「今の状態の自分にも……そんなことが起きるでしょうか?」

「こればかりは分らぬな。とはいえ、お前はここに存在している。だから、何らかのカタチで変化は起こるはずだ」

「これで何も起きなければ……大人しく、覚醒の時期を待つしかないんですよね」

「そうなるな。ただし、もう一人の自分が現れた再、失敗すればここまで弾き飛ばされる。一度で成功するかもしれぬし、失敗ばかりかもしれぬ」

 それでもやるか? と、最後の確認をされる。
 自分を気遣う蓮華さんに、大丈夫だと言い洞窟の先を見た。



「―――行きます」



 その言葉を聞き、蓮華さんは入り口まで、しっかりと手を握っていてくれた。

「私は、中には行けぬ。ここで、お前の帰りを待っていよう」

「はい。それでは――行ってきます」

 振り返ることなく、ゆっくり、洞窟の奥へと進む。中は思った以上に寒く、奥に行けば行くほど、水の冷たさは増してく。
 しばらく歩くと、開けた場所が広がっていた。真上には穴が開いていて、そこから中央に、日の光が注がれている。そこには球体の石が置かれており、そこに光が当たっていた。
 ゆっくりと、深呼吸をする。
 そして徐々に、左手を石に添えた。