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 シエロさんを部屋に連れて行くと、蓮華さんから部屋に誘われた。
 何が話されるのかと思えば、とあえず座れと言われ、向かい合わせになるよう腰を下ろした。

「近くに来い」

「?――これぐらいですか?」

「もっとだ」

「――これで、どうでしょう?」

「もっとだ。――顔を、よく見せろ」

 前のめりになり、蓮華さんはオレの顔を覗き込む。
 怖いぐらい真っすぐな青い瞳。
 質問する隙さえない雰囲気に固まっていれば、

「本当――似ているな」

 ため息のように、そう呟いた。

「瞳は私と同じだというのに、髪質はあいつ譲りか」

「蓮華、さん――貴方っ」

「そう怯えるな」

 蓮華さんの両手が、オレの頬に触れる。

「私は、お前のことを知っている」

「いつから、ですか――…」

「ミヤビに、お前が箱に触れたと聞いた時からだ。あれに無傷で触れられるのは命華。もしくは、あれの中に入った私ぐらいだからな。お前は――いつから気が付いていた」

「……つい、先程」

「まぁ、あいつが私のことを話していたとは思えぬからな。あわよくば、お前に私を殺させようと考えていたやもしれぬな」

 口元を緩めながら、蓮華さんは嫌なことを言った。
 実際、そういう命令を遂行してきただけあって、ありえない話ではない。もし、またあいつの力が働くようなことがあれば、それが現実になってしまうかもしれないのだから。

「――――」

「母がこれで残念か?」

 ふふっ、と笑みを見せ言う蓮華さんに、俺はすぐに言葉を返せなかった。
 知識として、父親や母親という役割を知っていたが、自分にはディオスという存在が全てだったせいか、そんなことを考えることもしなかった。

「残念、というか……今まで、そういったことは考えることがなかったので」

「そうか。――お前は、これまで何をして生きてきたのだ?」

「…………それは」

「言いたくなければよいぞ。やはり、自分の子だと思うと気にかかってな。よもや、私と同じことをされているのではないか――とな」

「同じこと――?」

「あぁ。お前はどうか知らぬが、私は死ねぬ体でな。薬はもちろん、武器の具合を知る為に使われていた」

 死ねない――体。
 同じ存在が、目の前にいる。

「俺も――死ねない、です」

 思わず、そう告げていた。
 すると蓮華さんは、目を丸くして俺を見た。

「まさか――これが遺伝するなど。いや、何らかの処置を施せばいいのか。私の血があるのなら、限定的ではあるが、同じ存在に創り上げることが可能かもしれない」

「限定的って……オレは、不完全なんですか?」

「お前がどういった処置を施されたかによるが、私のこれは、呪いによるものなのだ。これは、私のみに働いているといってもいいからな」

 もし、蓮華さんが言うような存在だとしたら……俺の体は、どこまで堪えることが出来るんだ? ただでさえ期限付きだというのに、そこに不完全要素まであったなら、いつまで存在することが出来るんだか。

「もし私と同じであれば、感情がある分、この先辛いことになるだろうな」

 深く、ため息をつく蓮華さん。
 そして数秒後――諦めたように口を開いた。



「大事な者たちの死を――見続けることになる」



 死ねないということは、それだけ生きる時間が長くなる。周りは当たり前のように傷付き、老いていくというのに、自分にそれが訪れることはない。