「おい、聞いてんのか!?」

 揺さぶれ、外していた視線をミヤビに向ける。するとミヤビは――目に、涙を浮かべていた。

「オレはアンタが嫌いだ……仲間だけじゃない、エメの体を壊したお前が憎いっ!」

 涙を流し、感情を露にする。
 それを俺は、ただ黙って聞いていることしか出来なかった。

「だけど……王華の長のおかげで、オレはまだここにいる。アンタがエメの希望になってたのもわかってる。だから……だからオレはっ!」

 掴んでいた手を荒く離し、ミヤビはうな垂れた。

「アンタを殺すのは……諦める。エメを、傷付けたくないからな」

 力無くそう言うと、ミヤビは立ち上がった。

「――――庭に出てる」

 そう言い、部屋を後にした。
 一人になった部屋で、俺の頭は、今のことを早く理解しようとしていた。
 どんな手段かは知らないが、生んだのはエメさん。でも、血縁関係は長と蓮華さん。だけど、蓮華さんはオレの存在を知らなくて――。
 この事実を告げるべきか迷った。
 望まれない。ましてや、長の子だとしたら――どんな反応されるのだろう。

「もうこちらに――雅はどうした?」

 戸が開き、蓮華さんが話しかける。庭に出ていると言えば、ならばお前だけでも来いと言われた。
 部屋から出ると、何故か蓮華さんは、隣の部屋に行かない。

「美咲は寝ておる。少々、話に付き合ってもらえぬか?」

 今は――自分のことを考えるな。
 そんなのは後でいい。
 大事なのは美咲のことだと、余計な考えを消した。

 ◇◆◇◆◇

「――――気が付いた?」

 目を開ければ、そこには見知らぬ人がいた。
 髪が紅色をした、桜色の瞳をもった女性。
 やわらかな笑みを浮かべながら、自分の頭を撫でる。

「だいたいは髪色が変わるんだけど、あなたは瞳も変わるみたいね。とりあえず、今は半覚醒って状態ね」

 まだ……半分なんだ。

「覚醒する時は、痛みを伴うんですね」

「そんなに痛かったの?」

「はい――。髪が伸びて、瞳が変わった途端、心臓が激しく高鳴って。しゃべれないほどの痛みに、襲われました」

「そう。やっぱり、覚醒の時は痛いのね」

「? あなたも――ですか?」

「そうよ。私も命華で――赤の命華」

 初めて見た。もう、命華は日向美咲以外にはいないという知識しかなかったから。

「もしかしたら――あなたも、私と同じになるかもしれないわ」

「同じ――ですか?」

「えぇ。だって、あなたは私の子どもだから」

 なら、彼女は日向美咲の――。

「母親、なんですか?」

「そうよ。私はシエロ。こうして会うのは、生まれて初めてよね」

「……すみません」

 自分は、ただの模倣だ。
 彼女が思うような者は、もうここにはいない。
 だから自然と、彼女に謝罪の言葉を口にしていた。

「謝ることないのよ? 私は過去に――もう、美咲と出会っているから」

「過去に――ですか?」

「そうよ。私には、未来を見る力がある。だから、あなたが今美咲とは違うってこともわかってるわ。私のこの力と、あなたが持っている力――美咲には、過去を見る力があるの。それがあるから、私たちは会うことができた。あなたは覚えていないでしょうけど、ちゃんと、娘と話すことはできたわ」

「それはよかった。でもすみません、ちゃんとした形で会うことができなくて」

「いいのよ。だってこれは、あの子が自分で選んだ結果だもの。――私にも、似たようなことが起きたから、よくわかるわ」

 両手を胸に当て、シエロさんは目をつぶる。