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 美咲の声が聞こえた。急いで向かえば、庭からミヤビに抱えられた、美咲であろう人物の姿が目に入った。

「安心しな。ケガはしてないから」

「そうか。だが……その髪」

「覚醒のせいじゃない? 瞳も変わってたし」

「覚醒――したのか?」

「いや、まだ半分。最終的には髪色が変わるからね。――なに、血が欲しくなった?」

「っ! そんなわけあるか」

「んなの見てればわかるよ」

 部屋に美咲を運び、蓮華さんとリヒトさんを呼ぶ。オレたちは隣の部屋に行くよう言われ、そこで呼ばれるのを待った。



「――そうそう。エメから伝言」



 珍しく話しかけるミヤビに、俺は耳を傾けた。

「箱を元の位置に戻したいから、手伝ってほしいってさ」

「ディオスの屋敷に忍び込めと?」

「いや、堂々と行けるってさ。ってか、アンタしかやれないみたいだからね」

「俺しかやれない――か」

 箱を手に入れる為。
 あいつが欲しい赤の命華を再現させる為。
 それが俺の存在理由。だからこれは、確かに俺にしか出来ないことだ。

「ま、本当は蓮華さんにしてもらうのが一番なんだけどねぇ~。アンタの血の半分は王華だから、負担がかかるのは確実だし」

「ちょっと待て。じゃあ残りの半分は――」

「知らなかった? そうだよ。残り半分は――蓮華さん」

 ニヤリ、怪しい笑みを浮かべオレを見る。
 血の半分が蓮華さんなら、蓮華さんはオレの――。

「あ、でも蓮華さんは知らないよ? 血が奪われるのは何度もあったらしいからね」

 ……なんでこいつは、そんなことを知っているんだ。
 これも全部、エメさんが教えたことなのか?

「お前……やけに詳しいな?」

「そんなの当たり前。ってか、アンタ誰が生みの親かもわかってないんじゃ……」

「わかってないも何も、今まで聞いたこともなければ、聞こうという意思さえ無かった」

「――――殴らせろ」

 急に胸倉を掴み、睨むミヤビ。
 そしていつものような感情の無い表情で、

「アンタを生んだのは――エメだ」

 静かに、そう告げられた。
 血は蓮華さんとあいつのものなのに、生んだのはエメさんだとか。

「――――なん、だよ。それ」

 口から出たのは、そんな言葉だった。

「だーかーら。アンタを産んだのはエメ。でも血縁関係は無い。箱を得る為、そーいう存在が欲しかったから、エメが使われたんだ!」

 思い切り右頬を殴られ、思わず声がもれたものの、ミヤビは言葉を続ける。

「なんにも知らないで……。おかげで、エメは自分の子が持てないんだぞ!? わかってんのか!!」

 オレが知るエメさんは、いつも笑っていた。
 部屋から出られないのに、いつも笑って、オレに色んなことを教えてくれた。
 だとしたら――彼女は、俺を恨んでいなかったのだろうか?
 望まない妊娠。しかも胎児は全くの他人。
 そんな状況で――彼女はずっと、俺に笑いかけていたというのか?