「叶夜が後悔をするならしません。そうでないというなら――」

 目と鼻の先。
 あと数センチという距離で止まり、



「叶夜には――笑ってほしいんです」



 目を細めながら言う彼女に、完全に意志は砕かれた。
 頬にある手を握り、それを自分の胸元へ持っていく。



「――目を閉じろ」



 静かに告げれば、美咲はそれに従った。
 そして呼吸を整え――距離を縮めた。
 きつく抱きしめ、唇を何度も重ねる。
 目を開ければ、ちょうど美咲も目を開け、視線が絡み合った。

「――これでも、後悔しないか?」

「後悔はないです。ただ――」

「どうした?」

「頭が、熱くなるというか。理解し難い感覚が――叶夜は、大丈夫なんですか?」

「俺は問題無い。その感覚も、ごく自然な反応だ」

 ダメだ……。
 今のでは終われない。
 もっと、お前に触れたい。



「また――目を閉じろ」



 軽く首を傾げたものの、従う美咲。
 だが次のは、今のと同じことをするつもりはない。

「口――開けろ」

「? く、ちっ!?」

 紡ぎかけた言葉ごと、勢いよく貪った。
 本能に任せ、ただひたすら、口付を重ねる。次第に美咲の呼吸が乱れ、こぼれる吐息がなんとも悩ましい――。それを聞いてしまえば、余計に感情が煽られた。

「んっ、……ぁ、ぅ」

 唇をついばむたび、美咲が声をもらす。
 俺自身も呼吸が乱れ、息の仕方がわからないほど、この行為に溺れていた。

「っ、……んっ、う、や」

 吐息共に、言葉が聞こえる。

「ひょう、やっ……っん」

 自分の名前が呼ばれている。それだけで、口付は更に激しさを増していった。
 そのたびに、吐息と共に名前が呼ばれ続ける。



 もう……どうでもいい。



 今だけ……今だけでも、お前を独占したい。



「はっ、ぁ……みっ、さき」

 俺も名前を呼び、美咲を求めた。
 すると強く、胸元の服が握られた。

「んっ、ぅ……ひょっ、ぅや」

 頭が痺れる。
 もっとしていたいが、そろそろ本当に息が危うい。
 最後に数回口付を交わすと、美咲の顔を胸元にやった。
 お互い肩で息をし、今まで吸えなかった分の酸素を吸う。