「すみません。記憶が無いので、どんな約束をしたのかは」

「小さい頃の話だから、無理もないわ。ここはね――華鬼が作る花畑。この花は、命華が作っていた花に近い物」

 周りを埋め尽くす白い花。
 これが命華の花に似ているなら、薬を作ることができるのだろうか。

「でも、今は薬を作れない。貴女が覚醒をしないと、花は作れないから」

 知りたいことを、彼女はすらすらと答えてくれる。

「あなたは――何故、そのことを知っているんですか?」

「さて、どうしてかしらねぇ~」

 ふふっ、と笑みをもらし、くるりとその場で回る。途端、風が花びらを撒き上げた。思わず見上げると、すとん、と静かに体が後ろに倒れた。



「全てが終わったら――ここに来なさい」



 顔をのぞきこみ、女性は言う。

「どうして――ですか?」

「それはね――秘密」

 口に指を当て、やわらかな笑みを浮かべる。

「ここに来たら――いいことがあるわ」

「いいこと――?」

「そうよ。その時の貴女にとって、とてもいいことが――ね」

 ひゅーっと、再び風が吹く。
 すると、女性の姿は消えていた。



「だから必ず――ここに来なさい」



 その声を最後に、女性の気配を感じることはなかった。



 あの人――誰だったんだろう。



 次第に、視界が揺らいでいく。
 今まで動けたのに、体が動いてくれない。もう、このまま休んでしまおう。



「――――みさ、き」



 おそるおそる、誰かが名前を呼ぶ。
 閉じかけた目蓋に力を込め、何度か瞬きをして見れば、



「――――美咲?」



 悲しげな表情の、叶夜が見えた。

「誰かに――連れて来られたのか?」

「いいえ。自分から、ここに来ました」

「一人で出歩くな。頼むから……無茶をしないでくれ」

 抱えながら、叶夜は言う。
 彼はどうして、こんなにも自分を心配するんだろう。



「叶夜は――何故、そんなにも心配を?」



 途端、叶夜の表情が固まる。
 口を開きかけたものの、すぐにつぐみ、言葉を飲み込んでしまった。



「叶夜――何故ですか?」



 再度問いかければ、ようやく、叶夜は口を開いた。